「BSもPLも見てます」経営する作家・今村翔吾氏が考える書店ビジネス
頭の中はずっと稼働しているということですか。 今村:僕のアタマの中には作家脳とビジネス脳というCPUが2つありまして、片方が休んでいると片方がガッと起動する、みたいな感じで交互に使っています。お風呂に入りながら、「あの立地やったら、坪なんぼまででいけるやろうか」なんて、出店戦略を考えること自体が楽しいんです。僕が住んでいる滋賀だったら、彦根かな、いや長浜の黒壁スクエアとかに出た方がええかな、とか。たぶん秀吉も風呂に入りながら、あの城はどうやって落とせばええねん、なんてやっていたと思うんですよね。 ●神保町に出しておしまい、では意味がない ビジネスにはリスクも付き物ですよね。シェア型書店の仕組みには、どんなリスクがあると考えていますか。 今村:そうですね。この形が「行ける、儲かる」となったら、あっという間にレッドオーシャン化するところが第一にあるでしょうね。簡単に言えば、ハコ(物件)を借りて、棚を置けば誰でもできる業態ですから。 ただ僕は、レッドオーシャン化は、別に問題だとは思っていないんです。むしろ、みんなが注目して、書店業界、出版業界以外からも参入が増えるのは、市場の広がりになるからOKやと思う。ですが、儲け主義で本の価値を二の次にしたり、過剰出店や価格競争が起きて破綻する店、借金を負う人が増えたり、といった事態になることを恐れています。 近年の高級食パンブームみたいな感じでしょうか。 今村:シェア型書店は小っさい業界ですが、だからこそ、関連する業界とともに、「これがモデルケースや」と言えるだけの形を一気通貫でつくってしまわないとあかんと思っていて。東京の神保町に出して、話題をつくって、ちゃんちゃん、じゃなくて、適切な経営形態を分析しながら、全国に広げていきたいんです。 先行するシェア型書店の経営者にお会いしたことはありますか。 今村:いろいろ研究する中で、お会いしたところもありますし、パンフレットを頂いたところもあります。棚を貸すと一言で言っても、現状ではオーナーによってさまざますぎて、経営のフォーマット、と言えるようなものはまだありません。 僕らもワン・オブ・ゼムではあるんですが、このままあちこちに乱立していくと、ものすごく面白いスタイルなのに、「シェア型書店」というものの基本的なイメージが何もできないまま、どこかで衰退していきそうな危機感は感じています。だからこそ、幅広く門戸を開くものをつくらなあかんと思っていて。 せっかく革命が起こりつつあるのに、ある程度まとまって数の力が出ないと、影響力もしぼんでしまう。 今村:そう、「あちこちで一揆が起きているのに、ばらばらのままで個別に鎮圧されて、歴史の波間に消えていく」……というパターンに落ちてはいけないな、と。 そうではなくて、最初は一家だけで立っていた楠木正成が、全国の武士をうまいことまとめて鎌倉幕府を倒した、と、そういうパターンにもっていきたいんです。 倒幕後のイメージはどうなるのですか? 今村:旗印はなんといっても町の本屋さん復活です。「ほんまる」でしっかり儲けられるモデルをつくって、儲けが出たら、棚主さんにセミナーを開き、有志、あるいは投資して独立できる人を増やし、出版業界、書店業界に還元して、いい対流を起こしたい。資金面や運営面、ネットワークづくりなどを応援する。小さな棚一個から一つの店ができていくまでを支援したいんです。