1人で5分の訪問看護、でも記録上は〝2人で30分〟 「患者や家族はおかしさに気付かない」ホスピス型住宅の「手厚い」ケア
末期がんや難病の高齢者を対象に、みとりに対応する有料老人ホームや高齢者住宅が近年、各地で増えている。「ホスピス型住宅」などと呼ばれ、高齢化による多死社会を迎えていることが背景にある。訪問看護・介護のステーションを併設していることが多く、運営事業者は「手厚い」ケアをうたう。事業者は看護・介護を提供すればするほど、公的な報酬をたくさん受け取れるため、業界ではビジネスモデルとして確立。中には報酬目当てで不正、過剰に訪問看護を提供している事業者もいる。ところが、ほとんどの患者や家族は不審に思わない。行政のチェックも行き届かず、現場の看護師からは「やりたい放題。こんなのおかしい」との声が相次ぐ。何が起きているのか。(共同通信=市川亨) 【写真】障害者を「食い物」に…ナースが見た訪問看護会社のあきれた実態 医師も眉ひそめる
▽入居者1人で月100万円の収入 「疑問に思うことがたくさんありました」。ホスピス型住宅を各地で運営する大手の会社に3年前まで勤めた首都圏の看護師はそう話す。 「記録上はどの入居者も1日3回、1回30分、複数人で訪問ということになっていたが、実際には5分で終わる場合もあった。複数人で訪問するのは一部の人だけだった」と証言。 加算報酬を受け取るため、早朝や夜間に訪問したように装う不正も行われていたという。「倫理的にどうなのか、ジレンマを感じていた」と漏らす。 会社からは「早く満床にするように」と指示が出され、「営利優先だな」と感じた。社長からは「理想を追うな」とも言われた。 この会社は各地でホスピス型住宅を運営。昨年までの5年間で施設数を6倍近く増やし、急成長している。今後もさらに増やしていく方針だ。 訪問看護だけでなく訪問介護ステーションも併設しており、介護業界の調査会社によると、この会社が得る医療と介護の報酬は、入居者1人当たり推定で月平均100万円を超える。高額の入居料を取る超高級老人ホーム並みの収入だ。
訪問看護は介護保険が適用される場合と医療保険適用の2パターンがあり、高齢者は通常は介護保険。ただ難病や末期がんなどの場合は医療保険で、報酬も高めに設定されている。厚生労働省の規定に基づき1日複数回、複数人で毎日訪問でき、その分報酬を受け取れるため、過剰な実施を招きやすいという構造的な問題がある。 ▽チョコを食べる付き添い 同様の実態は他社でも指摘されている。 千葉、京都、大阪の3府県で有料老人ホームや訪問看護などを手がける「アプリシェイトグループ」(大阪市)。同グループが運営する大阪市内の有料老人ホーム「アプリシェイト東淀川」での訪問看護について、複数の現・元社員が証言した。 それによると、同ホームでは難病や末期がんの入居者が10数人いるが、大半の人は状態が安定していて、以前は看護師1人で1日1回の訪問が多かった。ところが、同グループが契約する外部のコンサルタントが昨年春から訪れるようになり、「報酬を取りこぼしている」「制度上、認められている」として、訪問回数の増加や複数人での訪問を指示。難病などの患者には可能な限り1日3回、2人で訪問するように変わったという。