なぜヴェネチア・ビエンナーレ日本館で本格的なファンドレイズが行われたのか? 大林剛郎 × 田口美和 × 牧寛之 インタビュー
コレクションは「投機」ではない。新たな「サポート」のあり方を探して
──最後に、アートへの関心と、その延長線上にある支援をより集めるには、今後どうしていくべきでしょうか? 田口:やはり根本的に、人々のアートに対するリテラシー、認知を高めていくことが必要です。ごく一部のお金持ちの道楽ではなく、アートに触れることが老若男女に良い影響をもたらすということを、もっと広く認識してもらう。たとえば公的な予算も、市議会、県議会などいろいろなところで揉まれてようやく決議されるわけですが、そもそも意思決定に関わる方々にアートへの理解がなければ、いつまで経ってもお金が回ってこないわけです。先ほどのパブリック・スターの話で言っても、たとえばTateから著名なキュレーターが来たとして、その方がいかにすごい方なのかというのは、おそらくほとんどの方がご存知ない。そうしたことを皆が認識できる下地作りを少しずつでも進めていかねばならないなと常日頃から感じていて、私が主宰するタグチアートコレクションでは、現代美術を鑑賞する機会の少ない地域を中心に展覧会を開催するなどの草の根活動を行っています。 牧:私の短い経験から僭越ですが、いちばんの問題は、新規でコレクションを始める経済人が、投機目的で入ってしまうこと。私も最初はそうでした。幸いにも、はやい段階で大林さんや田口さんから声をかけていただいたおかげで「本当の楽しさ」を学ぶことができました。ゴルフも楽しいですが、「アートの健全な楽しさ」は他に類をみないものです。もっと多くの経済人仲間とそれをともに分かち合いたいです。 田口:すごくよくわかります。アートって入り口を間違えるとそのあとが大変なんですよね。大林さんや牧さんのような方々が、もっといろいろな方とできるだけつながれるような仕組みがあっても良いのかもしれません。 大林:いっぽうで、非常にポジティブな体感としては、この10年くらいでコレクターの皆さんの意識が少しずつ変わってきているようにも思います。少し前にサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)のリニューアルオープンを記念して、日本からの応援団というかたちで「Japanese Friends of SFMOMA」というプロジェクトを実施し、多くの方に協賛をいただきました。また、杉本博司さんの写真作品の所有者の方々にお声がけしたところ、全員が賛同してくださり、TATEに16点ほど寄贈させていただくことができました。皆さん、ただコレクションするだけでなく、サポート活動への志を高くお持ちでいらして、企業としても個人としても、ごく自然に手を差し伸べられる。そうした時代に、日本もなりつつあるのかもしれません。牧さんのような方が出てくるとは思っていませんでしたし(笑)。 田口:本当にそうですね。 牧:ありがとうございます。
Chiaki Noji