なぜヴェネチア・ビエンナーレ日本館で本格的なファンドレイズが行われたのか? 大林剛郎 × 田口美和 × 牧寛之 インタビュー
「小さなフィランソロピー」から始まる
──アーティストが国際舞台で持続的に活躍するためのサポートのほか、支援者に求められる役割は、他にどういったものがあると思いますか? 大林:企業のなかで文化芸術への支援に対する理解を深めていくことはなかなか大変だと思いますが、すでに音楽のコンサートやオペラなどを支援している企業は結構あります。美術展でも、印象派や古美術・仏像展といった分野はサポートされていますので、そういった中に、現代美術も少しずつ押し込んでいく必要がありそうです。クオリティの高い現代美術を支援することが、結果的に企業イメージを高めることにもつながるのです。 それから、そもそも経済界にいる私が文化芸術活動の支援を始めたのは、成熟国家となった日本がその先へとブレイクスルーし、より強い経済力を発揮して国力を高めるためには、日本が元来もっている素晴らしい技術開発力に加えて、クリエイティビティが必要になってくると実感したからです。各界の方々が芸術を支援し、さらにそれを日頃の生活や企業活動に取り込んでいただく。そのことで、日本の経済活動を高めていくということを目指しています。 田口:具体的かつ長期的な視点で言うと、美術館への支援が必要です。コレクションや人材の増強、そしてなにより展覧会開催のための予算が、どこの館も逼迫しています。予算がなくて良い展覧会ができないというのは本当に泣けてくる話で、たとえば作品を借りる際の保険が払えないから展覧会規模を縮小せざるを得ないというような憂き目にも遭っている。そういったところに公的な予算がつかないなら、あとは民間で支えていくしかないんです。 牧:「小さなフィランソロピー(社会奉仕、慈善活動)」を積み重ねていくこと。具体的には、毎年の納税分から、一部をアートに関連するふるさと納税として関連自治体に寄付していくという方法があります。たとえば、国際芸術祭「あいち」や京都府が主催する「Art Collaboration Kyoto」の開催支援を、実はふるさと納税で行うことができます。美術館単位でも、京都市が京セラ美術館の「村上隆 もののけ 京都」展を、弘前市が弘前れんが倉庫美術館の「蜷川実花展 with EiM: 儚(はかな)くも煌(きら)めく境界」展の開催支援や協賛を、ふるさと納税で受け入れました。また、静岡県をはじめ、収蔵品の充実をふるさと納税で支援できる自治体もすでに複数あります。最近では、京都市の「Art Aid for Kyoto」という仕組みで事業認定されたアーティスト本人に直接寄付できる仕組みもできました。 税控除を得られる寄付を使った支援の仕組みは、プロスポーツの世界ではすでに各競技で広がっています。私はバレーボールVリーグ1部のVCトライデンツ長野でオーナーをしていますが、「とにかく支援してほしい」というアプローチだとなかなかお金は集まりません。しかし、自治体が税控除を担保するふるさと納税と、地域にスター性のある選手がいると、知名度と安心感が相まって、一気に支援の輪が広がります。現代美術の世界も同様で、アーティストやキュレーターから、パブリック・スターとなりうる方が出現すると、より多くの注目を集めることができる。そして、整備され始めた寄付の仕組みを通して支援の輪が広がりやすいでしょう。