なぜヴェネチア・ビエンナーレ日本館で本格的なファンドレイズが行われたのか? 大林剛郎 × 田口美和 × 牧寛之 インタビュー
日本がガラパゴス状態から脱却するためには
──日本館に限らず、⽇本のアートシーンの国際発信⼒を⾼めるための課題はなんだと思われますか? 大林:やはり日本のアート界はかなりガラパゴス的なところがあると思っていて、関係者がもっと海外の美術館やギャラリー、コレクター、キュレーターなどとグローバルにつながっていく必要性を感じます。僕は若いコレクターの方々によく、海外の美術館やアートフェアを見に行ってください、すると世界ではどういったものが受け入れられているかが分かるから、という話をしています。今回、牧さんがキュレーターをヴェネチアに派遣して勉強の機会を作っておられましたが、これは大変素晴らしい取り組みでしたね。 牧:ありがとうございます。私が取り組んでいる「anonymous art project」では、ビエンナーレに先駆けて、3月に日本館代表作家である毛利悠子さんの壮行展「Vaghe onde sole」を東京表参道交差点で開催しました。ヴェネチアのヴェルニサージュ(プレビュー)には全国の国公立美術館から20人以上のキュレーターを、6月にはさらに範囲を拡大して30人以上を派遣しました。今回、ヴェネチアに派遣した日本人キュレーターには、海外の美術関係者からのインビテーションが大量に送られてきたとのこと。それくらい、海外ではキュレーターの社会的地位が高いのですね。 事実、私のような1年生が海外でアート関係者とお会いするときには、キュレーターの方に同行していただかないと、ほとんど相手にしてもらえません。彼ら・彼女らと一緒に行動をすると、アートフェアでも美術館でも非常に有利で、私自身が単独で動くのと比較しても、知識の深まり方が全く違うのです。今後は、そういう機会に、アーティストも派遣する機会を拡大していきたいと思います。 大林:逆に海外のキュレーターに日本に来てもらい、日本のアーティストを見つけてもらうということも必要です。かつて日本は、渡航費も滞在費も高くて敬遠される向きがありましたが、とにかくいまは円安なので、むしろチャンスです。手前味噌になりますが、私が組織委員会の会長を務めさせていただいている国際芸術祭「あいち2025」では、シャルジャ美術財団理事長兼ディレクターであり、国際ビエンナーレ協会の会長でもあるフール・アル・カシミ氏を芸術監督として招致しました。 田口:本当に素晴らしい。そういうところにお金が集まるようにしていきたいですよね。あとは、アーティストたちが内向きにならないこともとても大切です。やはり日本って、文化を発信するという点では地理的にも圧倒的に不利で。世界でいま一番ホットな展覧会を“いつでも”やっているような、ロンドンやニューヨークと同じ状況を日本で作ることはなかなか難しく、それだけに、日本でアーティストを目指している人にはハンディがあるんです。キュレーターやアーティストの海外派遣や、逆に海外からくる方をこちらで受け入れるエクスチェンジは、そのギャップを少しでも埋めてくれるはずですし、日本を客観視する機会にもなる。また、世界で評価される展覧会の巡回先に日本がリストアップされるようにもなるかもしれません。国内で何かしらのアワードをこじんまりと開催する経済力や労力があるなら、むしろそういったところに使っていただけると良いのかなと。