東京にこだわらない女たち 「ここには余白がない」
ほどよい距離感が心地よい
ウエディングプランナーのAさん(38)は、福岡県出身。就職して東京に住んだ後、現在は大阪に住んでいる。Kさんが大阪に住む一番の理由は、地理的に大阪が「日本の真ん中」で、「遊び心がある街だから」だという。 福岡でも東京でも働いたことがあるが、大阪がとても居心地がいいという。「大阪は、福岡にも帰りやすい、東京にも行きやすい。交通の便で大阪を日本の真ん中だと思っています。程よい街の距離感もいい。大阪市内に住めば、自転車である程度行きたい場所に行けることも便利です。私にとって東京は住む場所ではなく、刺激をもらいにいく場所で、福岡は帰る場所っていう感覚ですね。東京に住んでみたものの、結果的に今は『東京にこだわらない』というこだわりを持っている気がします」 Aさんのウエディングプランナーという仕事は、0から交渉して結婚式の場所を探していく。東京ではお金さえ出せば場所を貸してもらえる場合が多いが、大阪では「それ、おもろい」って思ったら貸してもらえる感覚だという。「どちらが合っているかは人それぞれですが、自分にとっては大阪の方が居心地良くて、チャレンジしがいがある、そう感じました」
東京にこだわらない層は6割
博報堂キャリジョ研プラスは2024年8月、20-59才の女性150人を対象に「居住地に関する調査」を行った。 グラフ1は東京在住経験の有無と東京にこだわりをもっているかどうかの設問である。回答者150人のうち、東京に在住経験のある46人の結果をグラフ化している。グラフ1をみると、「現在東京に住んでいるが、東京にこだわりはない」、もしくは「過去東京に住んでいたが、東京にこだわりはない」を合わせると63%(29名)おり、東京在住経験のある人の中で、過半数の女性が東京にこだわりをもっていないことがわかった。 「東京にこだわりがない」と答えた女性たちに、その理由を聞いたところ、最も多かったのは「人が多すぎるから」62%、次いで「家が狭いから、高いから」46%、「通勤が大変だから」23%という結果となった。 また、調査対象者全員に、住む町に求めることを聞いたところ、最も多かったのは「アクセスの良さ・利便性」59%、次いで「買い物のしやすさ」57%、「病院・学校など公共施設が充実」43%という結果となった。 インタビューの結果、東京にこだわらない女たちは、衝動的に移住した人もいれば、長い期間をかけて少しずつ移住に踏み切った人もいる。いずれも共通しているのは、自分にとっての優先順位をそれまで長い時間をかけて整理してきて、「自分の意思で」移住を決めていることだった。東京のことを嫌いになったというより、「住む場所ではない」と判断した人が多いようだった。 周囲の友人やコミュニティに流されるのではなく、自身がどう生きたいのか、この先何をしたいのかを考えた結果が「東京にこだわらない」理由ともいえる。また、はじめから完全に移住できなかったとしても、長い期間をかけて自分自身も、そして家族や周囲に理解してもらうという選択肢も見られた。 リモートワークが浸透し、暮らしの選択肢が増えている今だからこそ、自分の感覚を研ぎ澄ませ、「私はどこで生きたいのか」をもう一度、自身に問いかけてみてもよいのかもしれない。
文:松下裕美子(博報堂キャリジョ研プラス)