「東京メトロが運営」ロンドンの鉄道は何が変わるか 時間の正確さに期待感も、「日本流」打ち出すのは困難か
それでも、過去には少ない出資比率ながらも巧みなブランディングで利用者の注目を集めた例がある。 たとえば航空会社も展開するヴァージン・グループは、かつて東海岸線の長距離列車運行事業に少数株主として関与し、「ヴァージン・トレインズ・イースト・コースト」というブランド名を掲げた。これは、広く認知された「ヴァージン」の名称を活用したほうがブランディングに優れると他の出資者も判断したためである。 また、同社は日立製作所製の新型都市間高速列車に「Azuma(あずま)」と日本風の名前を付けた。これは東海岸線(東=あずま)を走ることにちなみ命名したものだ。お披露目にはヴァージン・グループ総帥のリチャード・ブランソン氏も出席し、注目を集めた。
同社は2018年に東海岸線長距離列車の運営権を返上したため、同年末にデビューしたこの列車を自社で運行することはなかったが、運営会社が変わってもその名は引き継がれ、現在も「Azuma」の名で運行されている。 ■「東京メトロらしさ」は出てくるか しかし、筆者の予想では、これまでのイギリス鉄道界の動きから考えて、東京メトロの参画があっても容易に実現しない事柄がある。例えば東京メトロによる運営権参画を記念するラッピング電車、ヘッドマークの装着や記念乗車券の発売などだ。駅での告知も積極的に行われないと予想する。
それでも、もしこれらの「可能性が低いトピック」のいずれかが実現されれば、日英の鉄道マニアはもとより、一般の人々にも響く驚くべき成果が生まれるかもしれない。「Azuma」のように、エリザベス線のどこかに、東京メトロの参画を受けたことで「東京」や「日本」を想起させるブランド名などが前面に打ち出されることがあれば、イギリスの利用者からの注目を一層大きく浴びるものとなる。 【写真の続きを見る】女王参列の開業式典、そして多くの「初乗り客」であふれた開業日のにぎわい
冒頭に紹介した初老男性は日本を訪れた際の経験をこう語っていた。「日本ほど電車が清潔で、時間通りに走り、人々が規則正しく乗り降りする国は他にない。世界中を旅してきたが、あれほど素晴らしい国は見たことがない」と。遅延、運行キャンセル、頻繁な保守工事による運休など、日々混乱のさなかにあるイギリスの鉄道にとって、日本の鉄道ノウハウはまさに光明となる可能性を秘めている。 イギリスの通勤電車のシーンに変化をもたらすかもしれない、日本の鉄道界の技術と知恵。これがロンドンの地でどこまで活用されるのか。期待とともにその行方を見守りたい。
さかい もとみ :在英ジャーナリスト