【映画『室井慎次』考察】『踊る大捜査線』は2024年も有効なコンテンツたり得るのか? 今後を占う「ふたつのカギ」
『踊る』カウンターとして作られた『室井慎次』二部作
お仕事ドラマであり、都市を描いたドラマであり、コメディドラマであり、ワチャワチャ感のあるエンタメ凝縮ドラマ。だが新作の『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』は、そのような『踊る』的コードを一切使っていない。自分たちが生み出したトンマナとは真逆に舵を切ることで、むしろ『踊る』のカウンターとして作っているようにも感じられる。 警察を辞めた室井は、地元に戻ってふたりの子供を里親として迎えている設定だから、この作品はお仕事ドラマというよりも家族ドラマ。これまでの『踊る』には、登場人物のプライベートがほぼ描かれてこなかったことを考えれば、この時点で相当に異色作といえる。そして本作の舞台は、大自然が広がる秋田の山奥。家を改装したり、畑仕事に精を出したり、狩猟で動物を捕えたり、魚を釣ったり、田舎暮らしの日常が静かに流れていく。都会の喧騒とは無縁の空間が、そこには佇んでいる。 口数の少ない寡黙な室井が主人公になる時点で、ある程度シリアス路線になることは予想できたが、コメディ要素もだいぶ希薄だ(2005年公開の『容疑者 室井慎次』も、非常にシリアスな作品だった)。今回コメディリリーフの役割は北大仙署の警察官・乃木真守(矢本悠馬)が担っているが、出演時間が多いわけでもなく、作品のトーンからも浮いているため、スリーアミーゴスのような爆笑引受人という感じでもない。『踊る』的トンマナをことごとく(意図的に)外しているのだ。 すでにニュースで流布されているとおり、『室井慎次 生き続ける者』のラストシーンには青島がサプライズ出演。今後は青島を主人公にした新シリーズのドラマ・映画が展開されていくものと予想される。『室井慎次』二部作はその序奏として、あえて作風を思い切りシフトチェンジしたのかもしれない。 思えば2021年に公開された『ゴーストバスターズ/アフターライフ』は、それまでの『ゴーストバスターズ』シリーズの「ニューヨークを舞台にした都市型映画」、「軽妙洒脱なコメディ映画」というスタイルを反転させて、オクラホマ州を舞台にした少年・少女たちのジュヴナイル映画になっていた。そしてその次作『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』(2024)ではニューヨークに舞い戻り、いつものゴーストバスターズ的ノリが復活。おそらく『踊る』も、そのような展開になるのではないか。