【映画『室井慎次』考察】『踊る大捜査線』は2024年も有効なコンテンツたり得るのか? 今後を占う「ふたつのカギ」
『踊る大捜査線』を構成する要素とは何か?
そもそも『踊る大捜査線』は、刑事ドラマとしては非常に型破りな作品だった。脚本家の君塚良一は、制作にあたって4つのルールを提唱したという。 ■1.刑事をニックネームで呼ばない ■2.少人数で捜査会議をしない ■3.聞き込みで音楽を流さない ■4.犯人に感情移入しない 『太陽にほえろ!』(日本テレビ)に代表されるような王道フォーマットをブチ壊すことで、アンチとしての刑事ドラマ、カウンターとしての刑事ドラマを目指したのだ。むしろこの作品は、一般的な視聴者層……サラリーマンの共感を呼ぶ設計がなされていた。 第1話のタイトルも、ズバリ「サラリーマン刑事と最初の難事件」。本作の主人公・青島俊作(織田裕二)は、大学卒業後にシステム開発会社に就職したものの、小さいころの夢を捨てきれず、一念発起して刑事へと“転職”した、異色の経歴の持ち主だ。 湾岸署刑事課強行犯係に配属された彼に待ち受けていたものは、思い描いていたものとは大きくかけ離れた現実だった。所轄の刑事はロクに捜査させてもらえないし、署長や課長たちはお偉方の接待に夢中。同僚の恩田すみれ(深津絵里)からは、「警察署はアパッチ砦じゃない。会社」と言われてしまう。つまり『踊る大捜査線』とは、組織の末端で地味な仕事に明け暮れながら、それでも自分たちが信じる「正義」をまっとうしようと奮闘するお仕事ドラマなのである。 また『踊る大捜査線』は、台場という東京臨海副都心を舞台にした、「都市を描くドラマ」でもあった。このシリーズが放送されたのは、フジテレビが河田町から台場に本社を移転した1997年。当時、まわりは建設予定地だらけで、劇中でも湾岸署は「空き地署」と揶揄されていた。まさに、都心の中の空白地帯。 『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』でも、真下正義(ユースケ・サンタマリア)が「この街は未完成なんです」と語るセリフがあった。進化していく都市とリンクするように青島たちが成長していくからこそ、この作品はスリリングだったのである。 そして何よりも、ほとんどコントとしか思えないコミカルな会話劇。和久平八郎を演じるいかりや長介(ザ・ドリフターズ)、中西修係長を演じる小林すすむ(ヒップアップ)というお笑い出身者に加えて、主演の織田裕二も、恩田すみれ役の深津絵里も、みんなコメディには定評のある俳優ばかり。柳葉敏郎もかつては、バラエティ番組『欽ドン!良い子悪い子普通の子おまけの子』(フジテレビ)にレギュラー出演していた。 特に神田総一朗署長(北村総一朗)、秋山晴海副署長(斉藤暁)、袴田健吾刑事課長(小野武彦)の通称「スリーアミーゴス」は、コメディリリーフを一手に引き受けている。『踊る大捜査線 THE MOVIE』では、いつまで経っても捜査本部の戒名を決められないという超絶おもしろシーンをご披露。脚本の君塚良一は、もともと萩本欽一の番組に関わる構成作家集団「パジャマ党」のメンバー。コメディシーンに、君塚節が唸っている。 劇場版では、ここにさらに大きな要素が加わる。「短時間で複数の事件が同時多発的に発生する」というワチャワチャ感だ。『踊る大捜査線 THE MOVIE』では、3日間の間に副総監の誘拐事件、サイコキラーによる殺人事件、湾岸署内の窃盗事件が発生。『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』では、11月の3連休に会社役員の殺人事件、スリ事件、通り魔事件、署長の不倫疑惑が発生。『踊る大捜査線 THE MOVIE 3』では、新湾岸署への引っ越しでおおわらわの3日間で、拳銃による殺人事件、銀行強盗事件、拳銃の盗難、おまけにスカンクの逃亡事件まで発生する。 言うなれば、「仕事はめっちゃ立て込んでいるけど、まわりはプチ宴会やらなんやらで大騒ぎ」というような、会社の年末感。ハレとケでいうところの、「ハレ」だけを煮詰めて凝縮させたような感じ。そんな場所に放り込まれてしまう快感が、『踊る』にはある。