なぜ稲見萌寧は日本ゴルフ界にとって歴史的銀メダルを獲得することができたのか…「プレーオフは勝率100%の得意分野」
日本ゴルフ界の歴史に新たな1ページが刻まれた。銀メダルをかけたプレーオフを稲見萌寧(22・都築電気)が制し、前回リオデジャネイロ大会で112年ぶりに五輪競技に復活したゴルフで、男女を通じて日本人初のメダリストとなった。 東京五輪16日目の7日に、埼玉・川越市の霞ヶ関カンツリー倶楽部東コース(6648ヤード、パー71)で行われた女子の最終ラウンド。首位と5打差の3位タイで発進した稲見は9バーディー、3ボギーの「65」をマーク。通算16アンダーで2位に並んだ、リディア・コ(24・ニュージーランド)とのプレーオフを1ホール目で制した。 世界ランキング1位のネリー・コルダ(23・アメリカ)が、通算17アンダーで金メダルを獲得。畑岡奈紗(22・アビームコンサルティング)とフィリピン代表で出場した笹生優花(20・ICTSI)は、ともに通算10アンダーの9位タイだった。
「日の丸を背負ってのメダルは私の人生のなかで一番の名誉」
銀メダルと銅メダルの行方を決める運命のプレーオフ。1ホール目の18番(パー4・436ヤード)で決着がついても、稲見は厳しい表情を崩さなかった。 すでに稲見がパーをセーブして迎えた元世界ランキング1位で、メジャーも2度制しているコの4打目。約2.5mのパーパットが、カップの右を通過した瞬間だった。 「リディアがパーパットを決めて次のホールに行くんだ、という感覚でいたので、ちょっとびっくりしてしまって」 キャディーを務めた奥島誠昭コーチと視線を合わせた稲見が振り返ると、銀メダリストを祝福しようと近づいてくるコの姿が視界に飛び込んで来た。現実の世界に戻った稲見は勝負師の表情を、あふれんばかりの笑顔へ変えた。 「日の丸を背負ってメダルを取れたことは私の人生のなかで一番の名誉であり、何か重大な任務を果たした感じがします」 男子は今大会の松山英樹、女子では前回リオデジャネイロ大会の野村敏京の4位タイが最高位だった五輪の歴史を、銀色のメダルとともに塗り替えた。 マスターズ覇者として優勝を期待された松山が、銅メダルをかけた7人によるプレーオフで力尽きた1日に稲見は会場入り。練習場で顔を合わせた際に「男子はメダルを取れなかったので、女子には頑張ってほしい」とエールを送られた。 しっかりバトンを受け継ぎ、手にした銀メダルに「実物はめちゃくちゃ重たいです」と目を細めた稲見は、普段の国内ツアーでは味わえない、日の丸が掲げられた表彰式の光景を感慨深げに振り返った。 「風がいい感じで日の丸をなびかせていたので、すごくカッコよくて感動的でした」 今年の前半戦だけで国内ツアーで5勝をあげた原動力を、そのまま初めて挑む五輪の、しかもメダル争いのプレッシャーがかかる最終日へ持ち込んだ。