「脳食いアメーバ」が世界で拡大、致死率97%で鼻から侵入、温暖化で北上中
脳食いアメーバはどこにいるのか
フォーラーネグレリアは、未処理の温かい淡水や、土壌、土ぼこりの中に生息していると、米マウント・ユニオン大学看護学部の臨床准教授で、「OJPH」に掲載された論文の著者であるカレン・タウン氏は言う。 氏によると、PAM感染はこれまでのところ、主に淡水の湖や池、温泉、貯水池で泳いだり、体に水をかけたり、顔を水に浸したりした場合に発生しているという。 一方、そこまで多くない感染経路としては、ホースの中でぬるくなった水、一般家庭向けのウォータースライダー型遊具、水遊びができる噴水やじゃぶじゃぶ池、個人の井戸から引いた水などが挙げられる。 「患者の大半は、未処理の淡水と最近接触した健康な子どもや若い成人であり、女性よりも男性に多く見られます」とタウン氏は言う。 フォーラーネグレリアは汚染された水を介して鼻に入り、鼻粘膜を通過し、嗅神経をたどって脳に到達すると、そこで平均5日間潜伏するという。 「PAMは突然の激しい前頭部の痛み、発熱、吐き気、嘔吐から始まり、さらに悪化すると首のこわばり、精神状態の変化、幻覚、昏睡へと進み、やがて死に至ります」と、米カンザス大学看護学部の研究担当副学部長で、タウン氏の論文の共著者であるバーバラ・ポリブカ氏は説明する。 体内に侵入したフォーラーネグレリアは、脳細胞を食べたり、細胞を傷つける有害物質を分泌したりといった、さまざまなメカニズムを通して人間の脳に「有害な影響」を及ぼすと、米アラバマ大学の微生物学者リア・スタール氏は言う。「脳内にフォーラーネグレリアが存在すると、直接的なダメージを受けるだけでなく、免疫反応が起こる結果として脳が腫れ、死に至る場合もあります」
診断も治療も難しい
CDCによると、PAMは致死率が高く、患者の97%以上が感染によって死亡している。米国の場合、1962~2021年に感染した154人のうち、生存者はわずか4人だ。 その理由は、PAMを見つけるのが非常に難しいことにある。通常、フォーラーネグレリアが検出されるのは患者が死亡した後だ。レグクマール氏によると、「インドではPAMと診断される患者は30%程度」に過ぎず、あとの70%は見逃されるという。 2020年に医学誌「Clinical Infectious Diseases」に発表された研究では、PAMに対する監視システムや検査が整備されていない国では、見逃される症例がより多いかもしれないと指摘している。 PAMのもうひとつの重大な課題は誤診だと、スタール氏は言う。これは、PAMの症状がインフルエンザや細菌性髄膜炎といったほかの病気とよく似ているためだ。「PAMは比較的まれな病気であり、初期段階で検討される可能性が低いせいで、診断が遅れることがあるのです」 PAMは報告数が少なく、臨床医の間でもあまり知られていないと、スペイン、ラ・ラグーナ大学カナリア諸島熱帯病・公衆衛生研究所のハコブ・ロレンソ・モラレス氏は言う。 「私は低所得国でも母国でもPAMの患者に関わった経験がありますが、ミルテホシン(PAMに対する「奇跡の薬」として知られる)を治療に間に合うタイミングで入手するのはほぼ不可能と言っていいほど難しいのです。ときには投与量を制限して、追加の薬が到着するのを待たなければなりませんでした。この状況は大いに憂慮すべきものです」 ロレンソ・モラレス氏は、2019年に学術誌「Trends in Parasitology」に発表したフォーラーネグレリアについての論評で、PAMが世界的に増加していることを指摘し、気候変動によってこの脳食いアメーバの「量と範囲」が増大している可能性が高いと示唆している。