「脳食いアメーバ」が世界で拡大、致死率97%で鼻から侵入、温暖化で北上中
気候変動とPAM
ナショナル ジオグラフィックは8人の研究者に話を聞いたが、その全員が、気候変動がフォーラーネグレリアとPAMの拡大に拍車をかけているという意見に同意している。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で感染症を研究するジミー・ウィットワース氏は、報告された症例が示すフォーラーネグレリアのいる場所は、ここ数年で北上していると述べている。 ロレンソ・モラレス氏によると、フォーラーネグレリアが繁殖しやすいのは、水温約30~46℃の水環境だという。干ばつと豪雨が重なった場合にも、このアメーバにとって理想的な温水環境が生まれる。 「以前は熱帯性と考えられていた病気が、寒冷な地域や国に移動しています」と氏は言う。 2023年に学術誌「Frontiers in Public Health」に発表されたパキスタンの研究では、熱波の激化がフォーラーネグレリアに適した温度を生み出し、「すでに同国にとって大きくなりつつある問題となっている」と指摘している。パキスタンは近年、PAMの集団発生に何度か見舞われており、予防的な対策をとる必要性が増している。 致死率の高さを踏まえれば、PAMへの対応を臨床と公衆衛生で優先すべきだと専門家らは考えている。すばやく診断できるように、医療従事者はPAMをはじめとする気候に関連する病気についての教育を受けるべきだと、タウン氏は言う。 PAMが今後増えることを想定して、子どもは頭部を水に浸けることを避け、泳ぐときにはノーズクリップを使ってほしいと、米アリゾナ大学の微生物学者チャールズ・ガーバ氏は助言する。「また、水道水の質が低いところでは、水を鼻に入れたり、鼻うがいに使ったりするのを避けてください」と氏は言う。 診断も治療も難しいのは確かだが、インドで最近急増したPAMでは、一筋の希望も見出された。 レグクマール氏によると、7月にPAMの症状で病院を訪れた27歳の男性は、ケララ州ティルバナンタプラム市内にある、苔のように緑色になった池に触れたという。男性は過去に脳の手術を受けた経験があったため、フォーラーネグレリアに汚染された水に触れたことによる感染と死亡のリスクが高かった。 男性は7月23日に亡くなったが、病院の医師らは、男性の住んでいた地域でPAMに感染している患者の有無をチェックした。その結果、6人の患者が見つかり、早期に治療を始めることができた。 「現在は、全員が快方に向かっています」とレグクマール氏は言う。「これは、致死率は高くとも、PAMには治療の可能性があるということを示しています。早期の診断と治療が、患者に生き延びるチャンスを与えるのです」
文=Puja Changoiwala/訳=北村京子