「妊娠の仕組みがわからない」――「不十分な性教育」に気づいた大学生たちの学び #性のギモン
「東大で性教育を学ぶゼミ」とは
性についての知識を与えられないまま放置されるなか、学生たちの間で自ら学ぼうという動きがある。その一つが、東京大学の「東大で性教育を学ぶゼミ」だ。2022年度の受講生は23人。 立ち上げメンバーの一人、修士1年(取材時、以下同)の野口さんはそのきっかけをこう語る。 「小説『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ著)のもとになった、東大生集団強制わいせつ事件が起きてしまったのは2016年でした。当時は、ジェンダーの話などができる場所があまりありませんでした。自分は大学のジェンダー論の授業で無知を知り、学術的にも興味をもちました。そこでちょうどその頃、さまざまな大学で講演をされていた福田和子さんに、自主ゼミを立ち上げて講師をしていただこうと考えました」 21年度に自主ゼミとして始まり、22年10月からは正規の単位が出る形のゼミになった。講師の福田和子さんは、性と生殖に関する健康と権利を守ることができる環境づくりのために活動している。「ガイダンス」の共同翻訳者の一人でもある。ゼミでは、「ガイダンス」に基づくセクシュアリティ教育を実践する。 ゼミ生は参加理由をこう語る。 「意図しない妊娠を防ぐ緊急避妊薬の薬局販売は日本ではまだ認められていません。私はこうした自分に直接関わってくる、認められるべきだけど認められない選択肢の問題に怒りを感じていました。どう対処したらいいかと考えたとき、セクシュアリティ教育を受ける人を周りに増やすことが解決策になるのかもしれないと思い、運営にも参加しています」(2年・佐竹さん)
「安心できるコミュニティー」をつくり議論
ゼミではさまざまなテーマについて議論する。「ガイダンス」に基づいた毎回の講義のあとに、例えば「パートナーを性病の検査に誘うためにどうするか」や、「性暴力に遭いかけている人を見たとき、第三者として何ができるか」などについて、4~5人の班で話し合う。そして全13回の最後の4回ではワークショップを行う。 このゼミでは、ルールが決められている。差別的・侮辱的・攻撃的な言動を認めない。また、個人の経験やプライバシーに関わる話をするよう強いない。そして、一人ひとりのアイデンティティや立場、意見、境界線を尊重することを求める。「性に関わることは、『恥ずかしい』『不快』と感じる境界線、『話しても大丈夫』と思える境界線が一人ひとり、時と場所によって異なる」からだ。 「ルールが設定してあることで、安心安全な環境で自分の思いを話せます。性の分野だけでなく、他の分野でもこういう安心できるコミュニティーは重要だと感じます」(2年・平田さん) 取材をした時期には、当時の首相秘書官による性的少数者や同性婚に対する差別的発言が問題となっていた。ゼミ生からはこんな意見が出た。 「そういう発言をすると『加害者』と見られますが、その人たちだけに非があるとは思いません。これまで築き上げられてきた価値観の中で生きてきたからだと思います。なぜそのような考え方になったのか、同性婚を忌避する考えをもつ人にどのようにアプローチするのか、ということに興味があります」(1年・里さん) 現実の問題にどうアプローチするかについても、ワークショップを通じて考えていく。講師や他のゼミ生を厚生労働大臣などに見立て、班に分かれて考え、「リモートワークを活用し、仕事をしながら男性も育休を取れる職場づくり」などといった社会を変えるための提言をするのだ。それに対し、現実のプロセスと同じように大臣役からは厳しい質問も飛ぶ。最後に大臣役らが提言を採用するかしないかジャッジし、採用人数が多ければ「成功」となる。