フリーランスモデルに聞くコロナ禍の生き方「自分の軸を大事に」
「できないことを嘆くよりできることをする」
危機管理が十人十色なのは仕方ないにしても、最低限のことが出来ていない人は断るという判断は大切なことかもしれない。また、メンタル面でも辛い思いをしてきた。 「昨年は海外からのオファーも数件あったのですが全部なくなりました。収入面のダメージもありますが一度決まっていた仕事がなくなったことによるモチベーション低下や、ジャンル全体にただよう閉塞感は大きいですね。人間はネガティブになると人を攻撃し始めるのか、SNSでも争い事を見かけることが増えたように感じます」 そんなふうに周囲も自身も盛り下がる中、山上さんは発想を変えて行ったと話す。 「後のことを考えようと。家で筋トレして体を絞ったり、次の撮影に備えてのイメージトレーニングをしたり、カメラを買って自分でも写真を撮ったり。できないことを嘆くよりできることをしよう、と思ったんです」 そういった臨機応変さと同時に、自分の軸をぶらさないことも大事ではないかという。 「コロナ禍で皆さんお金をなんとか稼ぎたいのだと思いますが、いろいろなお誘いがあるんです。たとえばミーティング用のアプリを使ってバーをやるからママ役をやってよとか。でも私はバーのママになりたいわけではないし、自分の指針からずれてしまうのはいままで撮っていただいたカメラマンさんにも失礼だと思い全部お断りしました。今は誰でもモデル、カメラマンって名乗れる時代。あいまいで非常に危ういと思うからこそ、自分の軸をどこに置くかは大事にしたいです」
SNSでの出会いに潜むリスク「自分を大事に」
SNSの活用法もいろいろと工夫しているようだ。 「最初はインスタグラムで撮影依頼のDMを受けていましたが、インスタはあまり言葉は読んでいただけないみたいで。そこでもう少し人間性や思いを伝えられるという部分で2年ほど前からツイッターも始めたんです。いまは企業案件も気軽なツールであるSNSを使ってオファーがあることが珍しくなく、企業側も事務所を通して高いお金を払うよりフリーのモデルを使ったほうが低いギャランティーでできるからっていうところで、良くも悪くもいろいろな意味で敷居が低くなってきている時代なのかもしれませんね」 そんな中、プロとしてのキャリアがない若い女性が気軽にモデルになることについては危惧する面もあるとか。 「SNSで出会ったカメラマンさんと撮影するのはコロナ禍ではなくてもリスクをともないます。私はこれまでのさまざまな体験からDMをやりとりしている段階で違和感を抱いた人はお断りしていますが、まだ人を見分けることが十分できない子が安易に飛び込むのは怖い面もあると思います。どこで誰とどういう撮影をするのか。自分を大事にして欲しいです。たとえばいきなり自己紹介の挨拶もなしに『撮らせてください』と言ってくる人は無理ですし最初から『写真集を作りましょう』と持ちかけてくる人も不自然ですよね。少しでもおかしいなと感じたことには近づかないほうがいいし、周りに相談できる人をつくっておくことも大事です」 SNSは便利な反面、そういった怖さがあることは否めない。相手に身分証明書の提示を求めたり1対1では会わないようにする、かならず人目につく場所で撮影する、エレベーターや車移動など密室状態は避ける、などの自衛手段も考えたほうが良いだろう。 「コロナでお金が稼げないから簡単にお金の匂いのするところへ近づく人もいるけれど、仕事がないときだからこそ自分を見つめ直したり、できることがあるのではと。モデルとして表現をメインにがんばっていきたいならなおさらです。たまに『私は写されていることで生かされている』と言う人がいますが、まずは自分がしっかり自立して生きてからの『写される』っていう話だと思うんです。そこの人間の幹を太くしていくってことが大事ではないでしょうか」 コロナ禍でダメージを受ける中、いろいろな意味で余裕のある判断ができなくなってしまう人も多い。安易な行動に走らず足元を見つめ直すことが大切ということだろう。 (写真と文・志和浩司) ■山上ひかり(やまがみ・ひかり) 東京生まれ。10代でスカウトされラジオMCデビュー。その後グラビアアイドルとして各種雑誌、写真集、イメージDVD、バラエティ番組、ドラマ、映画などで活躍。2005年にはMCU「A Peacetime MCU/SALT SCATTERバックコーラス」、08年「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」「猫ラーメン大将」(ともに河崎実監督)出演。芸能界引退と同時にライターへ転向。現在は知能教育講師の傍ら自身の経験を活かしフリーランスのポートレートモデルとして活動中。2021年には六車和貴×山上ひかり写真展「すなお」(青山・ナダール)を開催した。