柴田理恵 要介護の母と会うと1カ月介護サービスを受けられず、施設にも入れず…<孤独>と向き合ったコロナ禍の遠距離介護で気づかされたこと
◆「実は服を全然着替えないんです」 たとえば、こんなことがありました。 あるとき、ケアマネジャーさんに電話をして、「母に何か変わったことはありませんか」と聞いたところ、「実は服を全然着替えないんです」と言われ、驚きました。母はとてもきれい好きでしたから、にわかには信じられない話だったのです。 それはおかしいと思い、早速、母に理由を尋ねたところ、「よっちゃんに悪いから」と言います。よっちゃんというのはヒトシ君の奥さんで、そのヒトシ君によっちゃんを紹介したのは母でした。 母はよっちゃんが、二人の子どもを育てながら、自分の洗濯物まで引き受けて洗ってくれているのを知っていました。それが申し訳なくて仕方がなかったのです。だから、洗濯物が出ないように着替えるのをやめてしまった。 一方で、母が着替えをしなくなったと知ったよっちゃんは、「私の洗濯の仕方が気に食わないから洗濯物を出してくれないんじゃないか」とひどく気にしていました。 そこで私は、「よっちゃんが自分のせいで着替えるのをやめたんじゃないかと落ち込んでたよ。変に気兼ねしないで洗濯物を出したら?」と母に伝えました。それを聞いた母は、以後、ちゃんと着替えをするようになりました。 介護の現場では、ケアマネジャーさんなど介護をしてくださる側が踏み込めなかったり、介護される側も彼らに言いづらかったりすることがよくあります。そんなときは第三者が間に入ることで、案外、物事はうまく運ぶものです。このケースはまさにそうでした。
◆離れていてもできることはある 私たちには「人間、誰しも年を取れば、程度の差はともかくボケてくる」といった誤解があります。母が着替えなくなった際も介護の現場では認知症を疑う声があったようです。 でも母がそうであったように、お年寄りの気になる言動には何かしら理由があるかもしれないのです。それに気づいて適切に対処するには、ケアマネジャーさんなどとの密なコミュニケーションが不可欠なことに改めて気づかされました。 たとえば、あえて1週間のうち1日は母が一人でいる時間をつくったのですが、その1日にデイサービスを入れて、それまで2日だったデイサービスを3日にしたことがありました。 このときも母との電話の中で「1回増えたら、疲れるのよ」と言われ、初めて「ああ、そうなんだ」と気づくことができました。でも、母はそのことをケアマネジャーさんには言えずにいたわけです。 そこで私はちょっと調べて、訪問看護師さんに頼めば、背中だけマッサージしてくれたり、足だけを温めてくれたりするというのがわかったので、ケアマネジャーさんに、「訪問看護師さんを頼むのはどうでしょうか?」と提案してみました。 すると、「週3回のデイサービスが疲れるなら、そうしましょう」とすぐに手配をしてくださいました。2022年の1月のことです。 遠く離れていても、できることはいくらでもあるのです。 ※本稿は、『遠距離介護の幸せなカタチ――要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
柴田理恵