柴田理恵 要介護の母と会うと1カ月介護サービスを受けられず、施設にも入れず…<孤独>と向き合ったコロナ禍の遠距離介護で気づかされたこと
◆ニンジン作戦は本当によく効く では、私の場合、コロナ禍の遠距離介護はどうしていたかというと、母が自宅にいるときは、とにかく毎日電話をするようにしていました。介護施設に入っているときはスタッフの方に協力してもらってLINEによるビデオ通話で面会です。 母は介護施設で用意したタブレット端末で顔を見ながら話すわけです。これは介護施設側の都合もあって毎日というわけにはいきません。私の場合は1週間に一度か二度の利用でした。 2021年の春、母が腎臓の数値が悪化して入院、その後、介護施設のロングショートステイになったときもそうでした。 母は社交的なので、病院や介護施設でも「同じ町の人たちがいるから楽しいよ」と言います。介護施設にいたらいたで楽しむ術(すべ)を持っている。 でも一方で、「早く家に帰りたい」と本音もこぼします。 私は母の性格をよく知っているので、そんなときは「またお酒が飲めるように頑張ろう」とか「みんなを元気づけてね」とか、母の好きそうなことを言葉にして励まします。 母は何かしら目標があると張り切って元気になる。私のできる親孝行といえば、そのくらいのものです。 このときは、たまたま96歳になる母の姉も同じ介護施設に入っていたので、「しばらくの間、お姉さんがいるところで過ごして、元気づけてあげてね」と、とびきり重大な使命を頼みました。 しばらく介護施設でお世話になったあと、母は無事に自宅に帰ることができました。ニンジン作戦(母の治りたい気持ちを刺激する作戦)は本当によく効くのです。
◆「遠距離介護」を支えてくださる人、遠距離から私ができること ヘルパーさん、ケアマネジャーさん、お医者さん、親戚、ご近所や教え子のみなさん―。介護は周囲の理解と助けがあってこそ。遠距離の介護なら、なおのことそうです。 私の場合は、特に親戚のヒトシ君のサポートが大きい。彼なくして母を東京から支えることは、到底無理だったと思います。本当に感謝しています。 それから、ご近所のみなさんのご協力も絶大で、いくら感謝しても足りないほどです。高齢者であれば、ゴミ一つ出すのも大変です。それを「ついでだから」とご近所の方が家の外にあるゴミ箱から一緒に持っていってくださる。 家のまわりの雪かきや庭の草取りもしてくださる。ちょっと姿を見ないと思えば、「柴田さん、どう? 元気?」と心配して様子だって見にきてもくださるのです。 かつての教え子のみなさんもそう。母の好きなものの差し入れや雪かき、時には「実は今度うちの息子が高校受験でね」とか「小学生の孫がいじめられてるんだけど」などと、わざわざ相談事を持ち込んで母の教師魂を刺激してくださる。 そして「だからあんたはダメなのよ」などと昔の教師と生徒の関係になって、喜んで怒られてくださいます。それが母にとって何よりの元気の薬と教え子のみなさんもわかってくださっているからです。 ほかにも、地域の中で母が長い時間をかけて築き上げてきた数多くの友人・知人たちが、有形無形の支援やサポートをしてくださっています。 また、実際に母の面倒を見てくださるケアマネジャーさんやヘルパーさんなどに対しては、任せきりにするのではなく、こまめに連絡を取るようにしています。 そして、「母がこういうふうに言ってるんですけど、どう思いますか?」と相談したり、逆に「母に何か気になることはありませんか?」「母が何か困ったことはしてませんか?」などと尋ねたりするようにしています。 そうやって密にコミュニケーションを取ることで、問題の解決につながったり、逆に問題を未然に防いだりすることが可能になるからです。