なぜ西武の平良海馬は開幕32戦無失点のプロ野球記録を更新できたのか?「絶対同点にならないように0点を意識した」
平良は沖縄・八重山商工時代から、塁上に走者がいてもいなくても、一般的に球速が落ちるとされるクイックモーションで投げている。理由は単純明快。それは「自分に合っていて投げやすいから」であり、プロ入り後に一度修正したフォームも戻している。 クイックモーションの方が、打者にとってはタイミングが取りづらい。そこへ160kmの強烈な残像が加わるのだから、変化球に的を絞るわけにもいかない。さまざまな試行錯誤を繰り返し、いま現在も進化を遂げている平良に辻発彦監督も目を細めた。 「いやいや、すごいとしか言いようがないでしょう。完璧に抑えたピッチングばかりではないし、やっぱり試合をやっているといろいろな形で、味方のエラーだとかで失点することはよくあるけど、それがなくて32試合、1点も取られていないんだからね」 甲子園に出場した経験はない。2年生の夏までは外野手との兼任で、最上級生になってから投手に専念するも、公式戦で1勝もできなかった。ただ、無名の高校時代から西武との縁があったのか。2年生の秋にたまたま見た当時の西武のエースで、現在はマリナーズで活躍する左腕・菊池雄星の密着番組が平良を内面から変えた。 シーズンオフを黙々とウエートトレーニングにあてる菊池の姿に触発され、ならば自分もとトレーニングジムへ通い続けた。成果のほどはひと冬を越えた3年生の春に、それまでは140kmの中盤だった直球がいきなり150km台となって現れた。 中学2年で投手に転向するまで捕手だった関係で、強いボールを投げられる素養があった。そこへウエートトレーニングが融合された平良はプロから注目される存在となり、自らの暴投で首里高に0-1で敗れた最後の夏の初戦には10球団の関係者が集結した。 そのなかの一人、西武の渡辺久信シニアディレクター(現ゼネラルマネージャー)が速球だけでなく、けん制球やフィールディングを含めたセンスのよさに惚れ込み、2017年のドラフト4位で指名された。プロ入り後もウエートトレーニングは継続され、高校時代の体重90kgがいまでは100kgに増え、けがと無縁の身体につながっている。 昨シーズンに続いて主に8回を担うセットアッパーでスタートした今シーズン。不振の守護神・増田達至が二軍へ落ち、リード・ギャレットもセーブ機会で失敗を繰り返したなかで、阪神との交流戦第2戦から最も重圧のかかる抑えを託された。 「1試合1試合の積み重ねだと思うので、明日の試合も投げたら積み重ねられるように頑張ります」 マウンド上で見せる威風堂々とした存在感とは対照的に、ヒーローインタビューをはじめとしてフィールドを離れればおっとりとした立ち居振る舞いが「開幕」の二文字にかかわらない、連続登板無失点記録更新への期待を膨らませる。