なぜ西武の平良海馬は開幕32戦無失点のプロ野球記録を更新できたのか?「絶対同点にならないように0点を意識した」
最後は代名詞でもある直球を投じた。外角のやや高めへ、うなりをあげながら伸びてくる152kmの軌道に、一発長打のある代打・木下拓哉のスイングが腰砕けになる。 キャッチャー岡田雅利のミットにボールが収まり、空振り三振が記録された瞬間に生まれたプロ野球新記録。開幕からの連続登板無失点を「32」に伸ばし、6セーブ目をあげた西武の右腕、平良海馬は笑顔ではなくホッとした表情を浮かべた。 「1点取られたら同点なので。絶対にそれはないように、0点を意識しました」 中日を4-3で振り切った13日の日本生命セ・パ交流戦。同点のままでも最終回のマウンドに上がる予定だった平良の背中を、8回二死一、二塁から飛び出した、得点圏打率が5割を超える新4番・呉念庭の勝ち越しタイムリーが後押しする。 迎えた最終回。本拠地メットライフドームに詰めかけた約1万3000人は万雷の拍手で21歳の若き守護神を迎え、交流戦の成績を五分に戻す勝利と、2016年に田島慎二(中日)が作った、開幕から31試合連続登板無失点のプロ野球記録の更新を託した。 もっとも、力みもあったからか。先頭の主砲・ビシエドへは抜け球が目立ち、フルカウントからショートへの内野安打で出塁を許す。しかし、続く5番・福留孝介を0-1から143kmのカットボールで三塁ファールフライに打ち取って落ち着いた。 7回に同点の2点タイムリー二塁打を放っていた堂上直倫を瞬く間に追い込み、131kmのスライダーでまともなスイングをさせずに空振り三振に斬る。最後はチーム2位の6本塁打を放っている代打・木下のバットも空を切らせた。 投じた16球のうち直球はわずか5球だった。プロ野球史上、日本人選手で6人目となる160kmをマークし、平均でも153kmを超える直球だけに頼らないピッチング内容が、昨シーズンのパ・リーグ新人王に輝いた豪腕をさらに進化させている。 昨シーズンを振り返ったときに、直球の被打率が最も悪かったと気がついた。どんなに速くても、直球だとわかっていれば痛打されるのがプロの世界。研究してくる相手をさらに上回るために、カットボールやスライダーにさらに磨きをかけた。 成長するためには投資も惜しまない。MLB球団が導入して久しいポータブルのトラッキングシステム、ラプソードを自費で購入。リアルタイムで取得できるボールの回転数や変化量などのデータを、出陣を待っているブルペンで常にチェック。自らの感覚とマッチングさせる作業の積み重ねが、打者を翻弄する変化球の源泉となっている。 たとえば木下に対しては、141kmと142kmのカットボールで追い込み、131kmのスライダーでファールさせてから満を持して直球を投げ込んだ。緩急の差をさらに打ちにくくさせているのが、平良の特徴でもあるクイックモーションとなる。