ハリス米大統領候補の指名受諾演説:自身の出自・経歴と重ねて物価押し下げ、中間層支援、人権問題への対応をアピール:ハリス政権成立は日本経済・企業にはプラスか
基本はバイデン政権の政策を継承
ハリス氏は8月16日に、独自の経済政策案を示した(コラム「ハリス氏が経済政策を発表:物価の安定と中間層支援をターゲットに」、2024年8月19日)。これは、中間層支援とともに企業の不当な値上げを取り締まり、物価価格を下げることを目指す意欲的なものだ。またこのハリス氏の経済政策の独自案は、エネルギー政策、税制、貿易政策などを含まない、いわば経済政策分野のごく一部を取り出したものだ。 ハリス氏は今後、この独自の経済政策以外に独自色のある経済政策、その他の政策を積極的に打ち出すことはしないのではないか。その結果、ハリス氏の政策方針全体は、バイデン政権を基本的に継承するものとなるだろう。 選挙戦では、自身の出自や経歴を最大限活かしつつ、中間層支援、物価高対策、中絶問題など女性の人権問題の3点に絞って、トランプ氏との違いを際立たせる戦略をとるのではないか。これは、選挙戦略としては有効なのではないかと思われる。 他方、民主党が掲げる法人増税や不当な値上げをする企業を取り締まるとするハリス氏の姿勢は、反企業的であり、企業の間、あるいはウォールストリートではやや警戒されるだろう。
民主党およびハリス氏の掲げる物価高対策の実効性、実現可能性は高くない
不当な値上げを実施する企業を取り締まるというハリス氏の政策案は、企業が自らの利益を拡大させるためにコスト上昇分を上回る値上げを行い、消費者に負担を強いている「強欲インフレ」という最近の議論を受けたものだろう。しかし、企業の価格設定が正当か不当かを判断するのは実際には難しい。また広範囲に企業の価格決定を検証するのも難しいだろう。 また、民主党が掲げる法人増税やハリス氏が掲げる不当な値上げをする企業を取り締まる法整備は、議会での承認が必要になる。民主党が選挙で相応の過半数の議席を得なければ、そうした法律を通すことは難しいのではないか。 このように考えると、民主党およびハリス氏が打ち出す反企業的な政策については、その実現可能性は必ずしも高くなく、共和党との対抗で打ち出す選挙戦略としての位置づけのみで終わる可能性が小さくないだろう。この点から、民主党およびハリス氏が打ち出す反企業的な政策を、企業あるいはウォールストリートは強く警戒する必要はないのではないか。 他方で、トランプ氏が打ち出すすべての国からの輸入品に一律10%~20%、中国からの輸入品に60%超の追加関税を課すという政策は、実現可能性が高い。セーフガード(緊急輸入制限)を認める米通商法201条、不公正な貿易に対する制裁を認める米通商法301条は、大統領の権限で発動できる。これは、トランプ氏が、自身が大統領であった時期に実際に実施した。民主党が掲げる法人税率引き上げ、富裕者増税、企業の不当な値上げの取り締まりよりも、こうした大幅な追加関税導入が経済、物価に与える打撃は格段に大きい。 さらに、トランプ氏が掲げるドル安政策は、米国の物価を押し上げるとともに、日本を含む貿易相手国に甚大な経済的打撃を与える。