生きていたら59歳。今、夫・尾崎豊に伝えたい言葉をランタンに書き天に放った妻・繁美の想い
ランタンに託した2つの言葉
つい先日、タイのチェンマイで11月の”満月の日”に開催されるという『ロイクラトン(灯籠流し)&コムローイ祭り(天燈上げ)』に参加してきました。 私は、「人生で体験してみたいこと」「訪れたい場所」 のリストを作っています(笑)。 その中でも心惹かれ、近い将来叶えたいと思っていたのが、チェンマイのロイクラトン祭りでした。灯籠を流しながら夢幻的な雰囲気に包まれるひとときを思い描いていたのです。ただそう思っていても、なかなか行動に起こせず、ひとりで出かけるのも心細いし......と、行く機会を逃していました。 今年は4月に豊の33回忌、11月には彼の59歳の誕生日、12月で歌手デビュー40周年記念の1年間も幕を閉じます。これまでの32年間の喜びや悲しみ、挑戦や成長の時を経てきたすべての想いを灯籠に込めて流し、ランタンに願いを託して空へ飛ばしたい!と願っていたら、ボストン時代からの仲良しの心友がタイの自然を感じられる田舎町を巡るツアーを偶然にも開催することになり、今回はロイクラトン祭りにも参加するから、と誘ってくれたのです。 お祭りの会場になっている広大な寺院に着くと、数万人の参加者が来ていました。月面の模様がみえるほど大きな満月がとてもきれいでした。 熱気球(ランタン)を一人あたり2つ渡されました。心の中にこみ上げる想いを言葉にしようと思っていたのですが、ランタンの素材が和紙で思っていたよりも薄く、マジックで文字を書き過ぎると破けてしまいそうで、何を描こうかとても悩みました。できるだけ短い言葉にして、でも心からの気持ちを届けたい。考えた末に辿り着いたのは、やはり「愛してる」と「ありがとう」の二言でした。その瞬間、私は「LOVE」と「感謝」と書きました。私の想いはこの2つの言葉にしっかりと込められているので、これ以上の言葉は必要ないと思ったのです。
天に、そして豊の元へ
雲一つない碧く澄みきった夜空に想いを乗せてランタンを放つと、心の中の温かな光も輝きとなり、願いと共に高く舞い上がっていきました。夜空に浮かぶ数えきれないランタンは、幻想的な光の宴を繰り広げ、碧に映えるオレンジの色彩が浮かび上がる空の広がりは、誰もが抱く思索の深淵へと誘われるような感覚に包まれました。空へと昇っていく様子は神秘的な情景を作り出していて、ただただその美しさにしばし目を奪われ、それはまるで夜空に還っていく魂のように感じられました。 私は心の中に再び感謝の気持ちを刻み、祈りを込めました。 「祈りは叶う、願いは届く、想いは伝わる」という信じる気持ちが、宇宙の彼方にいる「親愛なる遠い彼」に響くように。 時間が止まってしまったかのようにすべての雑念が消え去り、この瞬間が私の魂を豊かにし、深い感動で満たしてくれました。 地上と空の境界が消え、まさにすべてがひとつに溶け合うように、悲しみと喜び、怒りと哀れみ、そして慈しみ......といったさまざまな感情が交り合い、まるで豊かな心と自分自身が一体となり、大きな包容の中に身を委ねるような感覚に包まれました。それはまるで、宇宙も地球も自然もすべて繋がっているようなワンネスの境地に一歩近づいたかのような体験でした。私たちが抱えるすべての感情は、実はひとつの流れの中で共鳴し合っているのかもしれないと思えたのです。この独特なシーンは私の心に深く刻まれ、その光景を見ながら、私はふと「生きていて良かった」と感じたのです。 まるで天に導かれるように......それは、夢のような体験でした。これまで私が味わった感動の瞬間や豊と分かち合いたかった景色が思い起こされました。感動は心のどこかに宿る小さな火花であり、誰かと共に分かち合うことで、二つの炎が交わりより大きな輝きとなります。今回は仲良しの心友のお陰で皆んなで感動を共にすることができ、こうして、また一つ私の夢が叶った瞬間を迎えることができました。夜空の下でのこの「感動」は、私にとって永遠の輝きとなり......豊が生前に言っていた、「心の財産」をこれからも大切に貯めていきたい。これはきっと、豊から私への贈り物なのだと思っています。 生きていたら59歳の夫の誕生日に寄せて。
尾崎 繁美