辛口コラムニストが選ぶ2024年「ドラマ総まくり」 ワースト1位がまさかの「虎に翼」になった“深い理由”
過剰な説明は不要
林:そのとおりで、この3本はベストのほうに入れる手があったんだけれど、さっき発表したベストの作品より上だとまでは感じられなかった。むしろこういう佳作・良作が――特にインパクトの面で――シリーズものや外資モノの影に隠れるような状況が嫌で、そういう状況まで含めてワーストのほうに持ってきて名前を挙げた……というところです。 アナ::TVerでの再生数などは好調だと伝えられることもあったものの、どの作品も視聴率は伸び悩みました。 林:先ほどホンについてありきたりじゃないと言ったけれど、異なる2つの時代と場所の話が交錯する「ダイヤモンド」やサスペンスものと家族モノのハイブリッドである「ライオン」については、難解だという批判も出たよね。 アナ::私は難解だとまでは感じませんでしたが……。 林:フツーのドラマより複雑なのは確かだとして、ただ、ワタシから見れば脚本も演出もかなり親切に、その複雑さを解きほぐしてくれていたから残念。タイムトラベルものや転生もののライトノベルがよく売れて、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』さえ文庫版がベストセラーになる国なのに、テレビドラマはいつまで噛んで含める式・過剰説明型の流動食であることを求められ続けなきゃいけないんだろう。
ワースト1にあの朝ドラ
アナ::なんだか落ち込んできましたが、気を取り直してワースト3の発表に戻りましょう。 林:連ドラ2024年ワースト3、第1位は……ドゥルルルルルルルルルル……ッ! ▼「虎に翼」【NHK/月曜~土曜・8時/4~9月】 アナ::私自身、あのドラマについてはずいぶんいろいろ見聞きしましたし、世間話でもよく話題になりました。特に仕事で一緒になる女性たちが、世代に関係なく、よく「虎に翼」の話をしていた印象があります。 林:あのドラマに限らず、NHKの朝ドラではテーマとしても登場人物としても、まず目立つのは女性なんだけれど、「虎に翼」の場合、単に女性を描くだけのドラマではなかった。女性を切り口として弱者と正義を描くドラマでもあったかなと。 アナ::確かに、戦争に動員される男性や差別される朝鮮人、非行少年、身体障害者、被爆者と、多くの弱者が登場しましたし、主人公が弁護士と判事を務める法曹人だったことにより、法を道具として弱者を救い、さらには強くするという正義を追求する姿が繰り返し取り上げられました。 林:そうそう。ただ、それだけなら現代版「女・水戸黄門」になりかねないところを、弱者と強者という区分のあやふやさや正義の限界まできっちり示したから、勧善懲悪カタルシスのみを求める純エンタメに堕さずに済んだよね。原爆裁判とか尊属殺重罰規定裁判とかをモデルにしたくだりを見ていて、特に感心しました。 アナ::同感です。そこまで高く評価するのに、なぜ年間ランキングではワースト1に選んだのでしょう。