島まるごと「天然記念物」南硫黄島の山頂にあふれていた<死体>。その正体は…地獄絵図のような光景は研究者にとっての天国そのもの
◆クロパラ 落ちている死体は、どうやらほとんどがクロウミツバメのようだ。クロウミツバメはオーストンウミツバメという近縁種にとてもよく似ているが、後者が真っ黒なのに対して前者は翼の上に白い斑点があるので見分けられる。 幼鳥ではまだこの斑点が見られないが、ここではクロウミツバメしか繁殖が見つかっていないので、間違いないだろう。 この鳥は、世界中で南硫黄島の山頂近くでしか繁殖していない。その面積はわずか0.3平方キロメートル、サハラ砂漠に換算すると、たったの1億分の3サハラしかない。 クロウミツバメの死体がたくさん手に入ることはなかなかない。しかも、巣立ち前の幼鳥の死体はここでしか手に入らない。 よし、ザックに詰められるだけ詰めて帰ろう。 なお、多数の死体に囲まれて大層気分が良かったので、私はここをクロウミツバメパラダイス、通称クロパラと呼ぼうと提案した。 アカパラ(筆者ら調査隊が見つけた「アカテツパラダイス」=通称アカパラ)と対になる良い命名である。だが、残念ながらこの名前は定着しなかった。 そりゃそうだよね、山頂って呼べばいいんだもんね。
◆巨大なタケコプターのような木生シダ 海鳥の死体はあちこちに見つかる。とはいえ、ゾンビ映画のように折り重なって山積みになっているわけではない。数分歩くと次のを見つけるというぐらいの密度だ。これでも他の場所と比べるととんでもなく多い。 死体を探して下ばかり見ていると、首が痛くなってきた。そういえばあまり風景を見ていなかったので、ちょっと周囲を見回してみる。 山頂は雲霧に包まれており、視界は20m程度だ。周囲には低木林が広がり、その中に大きなシダが交じっている。 いわゆる木生シダと言われるもので、太い幹を持ち上部に長い葉が四方八方に広がっていて、巨大なタケコプターのような姿だ。 このような木生シダは小笠原の他の島でも見られる。 しかし目の前のものは根本や途中から何本にも枝分かれしており、巨大なシメジの株のような格好をしている。火山列島固有種のエダウチムニンヘゴである。 他にもマルハチという木生シダも生えている。こちらは葉が落ちた丸い痕の中に「八」という字に見える模様が残っているので、覚えやすい。私が命名者でも、きっと同じ名前をつけたことだろう。 木生シダが生い茂る風景は、亜熱帯地域の特徴なので、それほど驚くに値しない。しかし、その合間に違和感のある植物が見え隠れしている。