「シリアの首都・ダマスカスはなぜ陥落したのか?」その理由と今後の展開を専門家が徹底解説!
12月8日、シリアの首都ダマスカス陥落のニュースが世界を騒がせた。アサド政権が崩壊し、中東の勢力図が様変わりしたのだ。シリアの反体制派はなぜあっさり政権を転覆させられたのか。これからのシリア、そして中東情勢はどう動くのか――。専門家に聞いた。 【写真】イランを陥落させたアル・ジャウラニ司令官 * * * 事の始まりは11月27日。イスラム過激派の「シャーム解放機構」(以下、HTS)が、本拠地のシリア北西部イドリブ県からアレッポ県に侵攻開始した。 シリア政府軍側にはロシア軍(以下、露軍)、イランのイスラム革命防衛隊、そしてマフディー軍、ヒズボラ、シリア社会民族党、パレスチナ解放人民戦線総司令部がついている。 一方の反体制派に立っているのは、トルコが支援するクルド系シリア国民軍(SNA)、自由シリア軍、米国が支援するクルド系シリア民主軍(SDF)だ。 この群雄割拠の状態に乱戦が予想されたが、HTSがあっけなく首都ダマスカスに到達して勝利。わずか12日間の電撃戦となった。 多数の反体制派武装勢力がひしめくなかで、なぜHTSがダマスカスを制圧できたのか。HTSが仕掛けた電撃戦に関して、戦闘の局面から元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)がこう分析する。 「HTSを束ねるアブ・モハメド・アル・ジャウラニ司令官はバランスが取れていて、IS(イスラム国)のように捕虜を皆殺しにしたりしません。また、イドリブ県を治め、行政経験もあります。 そのHTSが本拠地イドリブから出撃し、隣のアレッポ県を攻略して30日に征圧しました。そこからダマスカスに向けて進撃開始するわけですが、その先のシリア軍の動き、イラン革命防衛隊の有無を偵察しながら一気に南下して、中部の主要都市ハマの攻略を開始しました」(二見氏) その進撃路にはシリア軍がいて、その西側には露空海軍基地がある。 「これらの事前偵察では、政府軍支配地に潜んだHTS要員が情報収集を行ないました。HTSは数ヵ月前からドローン技術を学んでいます。さらにウクライナ軍からドローン150機とパイロット20名が来援し、上空から無人ドローンで偵察をしています。 そのドローン偵察によって、シリア軍、露軍の動きを掴み、イラン革命防衛隊の有無を見ながら南下しました。反政府武装勢力が小さな空軍とも言えるドローンを駆使して、電撃戦に成功した初のケースですね」(二見氏) HTSは、アレッポからダマスカスまでの367kmを12日間で進撃している。