「シリアの首都・ダマスカスはなぜ陥落したのか?」その理由と今後の展開を専門家が徹底解説!
国際政治アナリストの菅原出氏は、HTSの電撃戦を国際政治から分析し、こう話す。 「HTSのトップ、アル・ジャウラニ司令官の基本は"シリアナショナリズム"で、グローバルなテロではありません。なので、アルカイダ、イスラム国との関係を切って、シリア政府に対する反政府勢力としてのアイデンティティで臨む姿勢です。 そうした背景もあって、トルコが自分たちのテリトリーを拡大させようとシリア北東部に進出した際、HTSは上手く連携してイドリブ県に来ました。そして、シリア内戦ではロシア軍が来援し、空爆開始。ヒズボラが戦士を1万人動員しシリア軍を訓練して、シリア政府有利となりました。 今、そのヒズボラがイスラエルに叩かれて壊滅状態。さらに空軍基地では露空軍が50機の戦闘機を配備していましたが、ウクライナ戦争以降は13機しかなく、稼働機は7機程度。力の空白ができればすかさず入っていく。その典型が今回のHTSです」(菅原氏) まさに司馬遼太郎が描いた『国盗り物語』の21世紀版だ。戦国時代、美濃で斎藤道三が繰り広げた活躍を、イランで実現している。 「HTSのアル・ジャウラニ司令官は、旧政権要人と会談し政権移行に協力させ、すぐに暫定政権をつくりました。まずまずのスタートを切ったと思います。 さらに、犯罪に関与した旧アサド政権高官は追及されるが、一般の徴集兵には恩赦を与えると発表し、旧政権軍の兵士たちから武器を回収する作業も開始しました。この辺はスマートで賢くやっていると思います。 ただし、一部では旧アサド政権を支えたイスラム教アラウィ派の住民を襲ったり、旧政権幹部に復讐する動きなどが伝えられています。新政権の元で排除されたり、生きる術を失った旧政権の関係者は、抵抗し戦うしかなくなります」(菅原氏) そうなれば旧政権残党による反乱部隊が誕生してしまう。しかし、シリア国内乱戦の兆候は違うところから始まった。 ■シリア国内乱戦と核の恐怖 「12月8日、トルコが支援するシリア国民軍が、トルコ国境に近いクルド人支配都市のマンビジュでクルド人武装組織YPGを攻撃しました。10日にもコバニという別の町でYPGに激しい攻撃を仕掛けています。両戦闘ではトルコ空軍戦闘機が、地上部隊の進撃を空爆支援しました。 YPGの戦略的な重要性、つまり米国が今もYPGを支援し続けている理由は、YPGがISのテロリストたちの収容施設を管理しているからです。シリア北東部の中心には、ISのテロリスト9000名以上を収容する20ヵ所の施設があります。そこをYPGが警備、管理運営している。もちろん、その資金源は米国です。 今回、トルコがYPGを攻撃しましたが、YPGの司令官は米政府がトルコを止めないことに不満を表明しました。さらに、YPGとトルコが支援する武装グループとの戦闘が激化するなか、YPGの主要部隊は『ISの容疑者を収容している刑務所の警備から、戦闘員を前線に回さざるを得なくなった』と発表しました。これはYPGが米政府に対し、『われわれを見捨てるのであれば、ISのテロリストを野に放つぞ』という脅しです」(菅原氏) トルコはなぜ、クルドに対して攻撃したのか。