ファンの涙に感動。28年ぶり凱旋に「甲子園はいいな」と掛布2軍監督
グラウンドに立つと、甲子園特有の浜風が吹いていた。 「懐かしい風だった。昔を思い出したね。真剣勝負の甲子園にユニホームを着て立つのは、引退試合以来。打席に立つ選手をみつめながら昔の自分がオーバーラップした。甲子園はいいなあ。改めてそう思った」 背番号「31」が“聖地”に帰ってきた。5月3日、阪神の掛布雅之2軍監督(60)が、甲子園で初采配をふるう ウエスタンリーグの阪神対広島戦は、何もかもが異例だった。開門前から長打の列ができたため開門時間が早められ、試合開始30分後には通常のネット裏席だけではお客さんを収容しきれなくなり、三塁側の内野席まで開放された。発表された観客動員は1万93人。掛布2軍監督のサイン入り野球カードを先着のファンに配るなど、営業を交えて行った1万人動員計画は成功し、過去最多の観客動員を記録した。 阪神のこれまでの2軍戦の最多観客数は、現九州担当スカウトの田中秀太の引退試合として行われた2009年9月23日のソフトバンク戦の7054人。 掛布2軍監督の背番号「31」のレプリカユニホームを着ているファンがスタンドには多くみられ、選手交代を告げるために、イニングの合間に掛布2軍監督がグラウンドに姿を出す度に大歓声が起きた。 掛布2軍監督も「感謝に気持ちを伝えたかった」と、その都度、右手を挙げて声援に応えた。 現役時代、ベンチでの指定席は、若手の頃には一番後ろの列のライトスタンド側の端っこ。だが、レギュラーとして結果を残すようになってからは、故・中村勝広氏に「チームの顔はど真ん中で堂々と座れ」と言われ、前列のど真ん中が指定席となった。「チームの主力が、そこに座ることで相手ベンチへのプレッシャーを与えることになったんだ」。 1988年10月10日の引退試合以来、28年ぶりに甲子園のベンチに座ることになった掛布2軍監督は、前列の一番ホーム寄りの場所に身を乗り出して立った。 「戦闘態勢だな。戦う姿勢を選手に背中で示さねばならないから」 試合は、3回一死から四球で歩いた荒木郁也(28)が盗塁を決め、二死になったが、緒方凌介(25)がうまくレフトへ流し打って先制点を刻む。先発は、明日、1軍の中日戦で先発する横山雄哉(22)と昇格を争っていた岩崎優(24)。丁寧に低めにボールを集め、5回に広島の美間優槻(21)に同点ソロを浴びたが、8回まで1失点で踏ん張った。得点機に1本が出なかった阪神は、9回に2軍調整中の福原忍(39)、延長10回には、歳内宏明(22)を注ぎ込んで得点を許さず両軍の取り決めにより延長10回1-1の引き分けとなった。