なぜソフトバンク東浜は「信じられない」ノーノー偉業を達成したのか…”愛妻”甲斐の存在と亜大”伝統”シンカー
ソフトバンクの東浜巨(31)が11日、ペイペイドームで行われた西武7回戦で史上84人目、95度目となるノーヒットノーランを達成した。ロッテの佐々木朗希(20)が4月10日のオリックス戦で完全試合を達成して以来の快挙で、球団では1943年の別所毅彦(当時南海)、2019年9月6日の千賀滉大(対ロッテ)以来、3人目の偉業達成となった。球数を100球未満の97球に抑えた「マダックス」での達成で、これは2006年9月16日に山本昌(中日)が阪神相手に97球でまとめたノーノー以来。また沖縄出身のプロ野球選手としては初の大記録。なぜ東浜はプロ10年目でノーノーを成し遂げることができたのか。
「9回のベンチは異様な雰囲気だった」
9回を前に「ベンチは異様な雰囲気だった」という。いつもなら声をかけてくれるメンバーが誰も東浜の近くに寄ってこない。 「凄く気を使ってくれていた。自分が声をかけて流れが変わったら?というのがあったのかも」 その気遣いが「記録を意識した」という東浜の緊張感をマックスにした。 「ここまできたらもう打たれてもいいから(ストライク)ゾーンで(勝負して)、特別なことはせず自分のピッチングを最後まで貫こう」 そう腹をくくってマウンドに上がり、先頭の柘植をストレートで追い込み、最後はカットボールでスイングアウト、続く愛斗も同じくカットでファーストへのファウルフライに打ち取った。 ここでベンチから藤本監督が声を出す。 「あと一人」 左打席に好打者、金子を迎えた。ここまでの2打席はストレートで攻めて連続三振に抑えていた。東浜は「三振を狙いにいこうと色気を出した」という。 本来の彼のピッチングの原則は「追い込むまでは三振を狙わず、ツーストライクになったときにどうしようかと思って投げる。三振は狙いにいかない」というもの。 追い込んでからファウルで2球粘られてふと我に返った。 「自分のボールを投げよう」 甲斐のサインに2度クビをふって選んだのは150キロの内角ストレート。だが、金子のライナー性の打球が東浜を強襲した。 「捕れると思って」差し出したグラブをカスって打球は抜けていく。 「うわあ。やっちゃった」 27人目での被安打を覚悟して後ろを振り返ると、前進してきたセカンドの三森が、そこにいた。 「ギリギリかな。アウトになってくれ」 これまで「ソワソワした気持ちで」打球処理の行方を見たことなどなかったが、この時ばかりは、胸の鼓動を抑えることはできなかった。 ランニングスローと、金子の足の勝負。塁審はアウトを宣告した。東浜は緊張から解き放たれた最高の笑顔で、両手を突き上げてグラブをポンポンと2度叩き、好守を見せた三森と真っ先に抱き合い「やったあ!」と声を上げた。 マウンド上に生まれた祝福の輪。 中村から記念のウイニングボールを受け取った東浜は、「日付を入れて自宅に飾る」と言い、ヒーローインタビューで素直な気持ちを吐露した。 「疲れました。こんな気持ちのいい疲れは久しぶりです」 そして「まさか自分ができるとは思ってもいなかった。まだ信じられないです」と続けた。