嚥下機能の回復を目指すには? うまく噛めない、「ごくん」と飲み込めないとき
「食事中によくむせる」「食べこぼしが多い」などの症状が、ご自身あるいはご家族に起きている人はいませんか? 「食べる力」は、年齢とともに衰えてきます。自覚がある場合、もしかすると嚥下障害を起こしているのかもしれません。 【画像】死刑囚が「アイマスク」をするヤバすぎる理由 嚥下障害(摂食嚥下障害)とは、口からうまく食べられない状態をいいます。嚥下機能の低下は、窒息を起こしやすくするだけでなく、誤嚥性肺炎という、高齢者にもっとも多いタイプの肺炎を招く原因にもなってしまいます。肺炎は日本人の主な死因のひとつで、高齢者にとっては、まさに命にかかわる重大な病気です。 そこで、全8回にわたり、食べる力の維持や嚥下機能の回復を目指すためのヒントをQ&A形式でご紹介します。早めに対処して、食べる喜びを末永く味わっていけるよう、正しい知識を身につけていきましょう。今回は、うまく噛めない、飲み込めないときの基礎訓練をご紹介します。 嚥下障害第5回
Q 障害があるときの基礎訓練の始め方は?
食べる力を「食べるために必要な機能」ととらえるなら、さまざまな訓練や治療によって摂食嚥下機能の回復を目指すことが、食べる力を高めることにつながります。 摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハビリ)としておこなわれる各種の訓練法は、食物を使わない基礎訓練と、食べながら進める摂食訓練の大きく2つのグループに分けられます。 ここで取り上げている基礎訓練は、障害の程度を問わず取り組めます。摂食訓練は、障害の程度に合わせて段階的に進めます。病気・手術などによる絶食状態のあと、まったく食べられないときは基礎訓練からスタートします。 口が開きにくい、うまく噛めない、飲み込めないなど、食べる力の低下が目立つときは、まずは基礎訓練として、口周辺のマッサージ、唇や舌への刺激のほか、生活リズムを整えることも大切です。
Q 口の動きを促すマッサージのしかたは?
口元やあごのまわりには、摂食嚥下にかかわる筋肉が集まっています。筋肉の緊張が強いと、食物の取り込みや咀嚼(そしゃく)の過程に問題が起こりがちです。口が開きにくい場合には、口のまわりの皮膚やあご、あごの下の皮膚をやさしくマッサージして筋肉の緊張をゆるめ、口を開閉しやすくしましょう。 唾液量の調整にもマッサージが有効です。唾液を分泌する唾液腺の位置も意識しながらおこなうとよいでしょう。唾液がうまく飲み込めず、よだれに悩んでいる場合には、唾液腺上の皮膚のアイスマッサージがおすすめです。 唾液腺を皮膚の上から冷やすと唾液腺の働きが抑制され、唾液の分泌量が減ることがあります。口唇をマッサージして唇を閉じる動きを促し、唾液を飲み込むようにすることも大切です。 逆に、口の中が乾燥ぎみで咀嚼に問題が生じている場合には、口腔内を潤すとともに手の指でやさしくマッサージすると、唾液の分泌が促されます。目的に応じた適切な方法を選んでください。 ● 手や指だけでやさしくマッサージ 麻痺がある人などは、介護者が指の腹を使ってやさしくマッサージします。必要に応じて使い捨ての手袋を着用しておこないます。急に顔にさわられるのはいやな人もいるので、必ずひと声かけてから始めます。 ● 冷たい刺激を与えるアイスマッサージ 唾液腺を冷やすことで唾液を減らすだけでなく、筋肉の緊張をほぐすのにも、アイスマッサージは有効です。冷やすと一時的に血管が収縮しますが、その後、血管が広がり、筋肉の緊張がやわらぐ効果が期待できるからです。 スクリューキャップつきの缶コーヒーなどの空き缶の内部に、氷と少量の食塩を入れてよく振り、冷えた蓋側の金属面をマッサージ部位に当てて使います。1日3回、食前に5~10分程度、1ヵ所につき10~15秒、皮膚が少し赤くなるくらい冷やすとよいでしょう。 (図版) ▼皮膚のマッサージ部位