「富士山」で噴火がおこったら…噴火直後から飛んでくる「噴石」、身を守る「意外な最善策」
逃れるには?…「追いかけられる前に逃げる」
現実には噴石を防ぐ効果的な方法は、真っ先に逃げること以外にない。噴火の初期に噴石の災害が起こりうることは、ぜひ覚えておいていただきたい。そして噴石に気づいたら、決してあわてずにシェルターなど堅固な建物の中に避難しよう。 屋外では、鞄でも何でも手持ちのものを乗せてただちに頭を保護する。鍋をかぶってもよい。車は、可能であればカバーやレジャーシートで覆う。 山の中や火口の近くで遭遇した場合は、噴石の弾道を避けることはそう難しくない。というのは、火口付近で上から落ちてくる噴石は一般に速度が遅いため、自分をめがけて飛んでくる噴石を目で追うこともまったく不可能ではないのである。 逆に、火口から2キロメートルを超えるところまで飛来してくる噴石は速度が速いので、目で追いながら避けることはまず不可能である。ただし、このような遠方まで飛んでくる噴石には大型のものはそう多くはない。 噴石が火口を飛び出してから地面に落ちてくるまでの時間も、重要な要素である。たとえば、3キロメートルの距離まで飛んでくる大型の噴石(火山岩塊のサイズ)は、着地するまで30秒ほどかかる。これより小さな火山礫では3分程度の余裕がある。 いずれにせよ、噴石に追いかけられる前に逃げることが、噴石から身を守る鉄則なのである。
「不意打ち」の災害は「被害」を大きくする
噴石は、その固有の特徴に注意すれば、被害を防ぐことは十分に可能である。ただし、噴火の最初期に単独で発生することがある点には注意していただきたい。 富士山が世界文化遺産に指定されて以来、世界中から観光客が訪れている。夏山シーズンに吉田口登山道から頂上をめざす登山者は、毎日8000人近くにもなる。だが、観光客は登山道に不案内な場合が多く、かつ一般の住民と比べて火口に近い場所にいるため、いったん噴火が起きると災害弱者になる。 とくに富士山のように広大な山麓に散らばる観光客や登山者に噴火情報を伝えることは非常にむずかしい。火山活動が活発化したら、すみやかに緊急速報メールを流すほか、山小屋や観光施設と連携して早期に下山を呼びかける必要がある。 自然災害は何でもそうなのだが、不意打ちを食らった場合に被害が最も大きくなる。噴石という現象はその代表的な例である。 富士山が噴火したら「どんな被害が起こる?」 【噴石被害】をはじめから見る……………はこちら【火山灰】どこまでひろがる?……………はこちら【火砕流】一瞬で焼き尽くす………………はこちら【溶岩流】どこまで逃げればいい?………はこちら【火山泥流】足柄平野を苦しめ続けた……はこちら 富士山噴火と南海トラフ――海が揺さぶる陸のマグマ
鎌田 浩毅(京都大学名誉教授)