脚本家・生方美久は、数学がすきで得意で、国語がきらいで苦手だった
音楽を仕事にする人を夢見たりもしたが、残念ながら音痴だし、楽器は何をやっても下手くそだった。さっさと諦めて聴くことに徹した。野田洋次郎さんみたいに歌えないし、弾けないし、作曲もできない。でも、言葉を紡ぐことはできた。音楽に乗る言葉じゃないけど、ボーカルの口から流れる言葉じゃないけど、俳優さんの口から出る言葉を書けるようになった。 世界に当たり前にあって、みんなが当たり前だと思って素通りしている事柄について、「良い意味に使われるけどほんとにそうか」「こっちから見たらこういう意味にもなる」「その言葉の意味はほんとに一つなのか」と、うざいくらいに考えていたい。つい書いてしまうこういう類のセリフ、きっと一部の人にはうざくてたまらないと思う。それでも、地球がなんで丸いのかという持論を持つことは、無意味ではないはず。中学生の自分がラッドの歌詞で世界の見え方が増えたり変わったりしたように、ドラマや映画を観て新しい世界を知る人がいると信じたい。地球はどこから見ても丸い。でも、見え方は人の数だけあるはず。 大きくは「作家」と呼ばれる仕事をしているので、言葉のルーツを聞かれることは多い。でもそれは、「どのアーティストのどんな歌詞に影響を受けましたか?」な訳がない。尊敬する脚本家さんを聞かれるか、すきな小説を聞かれるかだ。わたしは間違いなく、十代のときに歌詞から言葉のおもしろさを学んだ。きっかけとなったRADWIMPSをはじめ、andymori、syrup16g、ART-SCHOOL、tacica、ASIAN KUNG-FU GENERATION、スピッツ、スーパーカー、クリープハイプ、サカナクション、フジファブリック……羅列すると妙な恥ずかしさがあるほど、自分の青春を支えた言葉を紡いでくれた人たち。一歳のときの言葉は両親から学び、十代以降の言葉は彼らから学んだ。tacicaの猪狩翔一さんの歌詞に至っては文学だと思っています。歌詞カードを是非。もう少し大人になってから知った音楽で素敵なものもたくさんあるけど、でもやっぱり、どうしたって、十代で得た言葉の鮮度には敵わない。 数学がすきで得意で、国語がきらいで苦手だった自分が「作家」と呼ばれる仕事をしている。仕事になったことで活字恐怖症は改善されつつあるが、やっぱり本を読むのは遅いし読解力にも自信がない。それでも言葉を紡いでいる。視聴者の方から「脚本家になってくれてありがとうございます。生方さんの言葉がなかったら今の自分はありません。」という有難すぎるお言葉をいただきました。ただそれは、上に記した作詞家のみなさまにお伝えください。彼らがいなかったら、脚本家である今の自分は、絶対にいませんでした。 生方美久(うぶかたみく) 1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」の全話脚本を担当。 TEXT=生方美久
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