小保方氏の博士論文 「学位は取り消さない」結論が導かれた論理
理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーの博士論文について、早稲田大の調査委員会は、論文に盗用などの不正があったことは認定したものの、「博士号の取り消しには該当しない」としました。調査委のこの結論には異論の声も出ています。不正は認めるが学位は取り消さないという分かりづらい結論はどのように導かれたのか。調査報告書の中身をひもときながら見ていきましょう。 【全編動画】小保方晴子氏が会見「未熟さで迷惑かけた」
早大が調査報告書をウェブに公開
7月17日、理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダーが早稲田大に提出した博士論文について、早稲田大の調査委員会が会見を開きました。その会見では、同調査委が早大に提出した「調査報告書」の「概略」のみが公開されましたが、2日後の19日、早大がウェブサイトにて、調査報告書の全文を公開しました。 ただし、調査委が調査対象者のプライバシーを侵害する可能性があると判断した部分などは黒塗りされています。また、多くの関係者の名前はイニシャルで表記されています。さらにいえば、委員会のメンバーのうち氏名が公表されているのは小林英明弁護士だけです。残りの4人は「国立大学 名誉教授 医学博士」など肩書きのみが記されています。 調査委はこの報告書において、小保方氏の博士論文を、盗用などの不正行為があると認めているにもかかわらず、博士号の取り消しには該当しない、と結論づけました。
不正行為の「意思」が必要という規定
調査委は、「著作権侵害行為」かつ「創作者誤認惹起行為」、いわゆる盗用や「コピペ」に当たる部分が、論文中に11か所あることを認めています。論文の第1章にはアメリカのNIH(国立衛生研究所)のウェブサイトからの盗用が約20頁にも渡ることが確認されました。また、「意味不明な記載」や「論文の形式上の不備」などが15か所あることも認めています。つまり合計26か所の問題点があるということです。 ただ、小保方氏は博士論文の草稿(下書き)を「誤って」製本し、それを大学側に提出し、修正した論文を提出したといいます。しかし、それは疑惑が生じた後に書き直されたものである可能性があるため、調査委が小保方氏に「ワードファイルデータ等」の提出を求めたところ、6月24日にそれを受け取ったといいます。その最新の更新履歴はメール送信の1時間前であったと、小林委員長は17日の記者会見で明かしました。 一般的な理解では、最新の更新が送信1時間前であるなら、書き終えたのも送信1時間前とみなすほかありません。 ところが調査委は、早大の「学位規則」では「不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したとき」に、学位を取り消すと定められていることに着目します(47頁)。そのうえで「不正の方法」という場合の「方法」について、「不正」行為を行う意思(不正行為の事実についての認容)をもって、不正行為を行うことが必要」と説明します(49頁)。そして調査委はこの規則を以下のように解釈します。 「学位の授与の過程、その前提となる博士論文の作成過程等に不正行為があっても、行為者が当該不正行為の事実を認容しておらず、行為者の過失によって不正行為が生じた場合には、学位を取り消すことができない」(同前) つまり、とにかく本人が不正ではなく過失である、と主張し続け、不正行為をしたという「意思」を示さなければ、「不正の方法」ではない、したがって学位を取り消すことはできない、ということです。