悪路性能、頂上決戦! 日本代表トヨタ・ランドクルーザー250 vs 世界選抜ジープ・ラングラー&ランドローバー・ディフェンダー 本格派ゆえ心して乗るべし!!
クロスカントリー4WDのワールドカップ!
日本での人気を受けラインナップを拡充したディフェンダーと、新型に切り替わったジープ・ラングラー。この2台の歴史あるオフローダーに挑むのは、日本が誇るランドクルーザー・シリーズの新作250だ。高平高輝はこの日英米の3台に富士の裾野で試乗して、何を考えたのか。 【写真34枚】実力・人気・伝統の三拍子そろったクロスカントリー4WDのワールドカップ ランドクルーザー250、ディフェンダー、ラングラーの写真はコチラ ◆世界の果てでも生きている 外国の路上で、めったに見かけない日本車に遭遇するとそれだけでなんとなく嬉しい。頑張れよ、と声をかけたくもなる。だがランドクルーザーだけは、ほっこりするどころではなく、「どうぞご無事で」というしかない過酷な状況に置かれていることが多い。 若手の頃はWRC(世界ラリー選手権)の取材でケニアなど、いわば世界の中の新興国に出かけたものだが、インフラが整っていないそのような国では、とことん酷使されるのがランクルである。おそらくはトラックや乗り合いバスに仕立て直されるであろう“骨と皮”だけ、つまりフレームと運転席だけになったランクル(アフリカでは70と150プラド系およびそれ以前のモデルがほとんどだ)も何度となく見かけたものだ。 地球上のあらゆる地域で、本当にかわいそうになるぐらい酷使されたあげく、たとえボディは朽ち果てても、生まれ変わってまた人々の生活の役に立つ。それに応えるのがトヨタ・ランドクルーザーなのである。 念のために復習しておくと、1951年のトヨタBJ型ジープを起源とするランドクルーザー・シリーズは現在まで70年以上にわたって作り続けられてきたトヨタの代表車種である。 ランドクルーザーの車名に変更されたのは1954年からで、ということは1955年発売のクラウンや1966年デビューのカローラよりも歴史は長い。途中で豪華な旗艦ステーションワゴン(50系/現在の300系)とヘビーデューティーな40系(後の70シリーズ)に枝分かれし、さらに1985年に別建てとなった70系ワゴンから進化して1990年に名称変更されたのがライト・デューティーと位置づけられるランドクルーザー・プラド・シリーズである。 新型250はこのプラドの後継モデルに位置付けられるが、原点回帰をキーワードにランドクルーザー3車種の立ち位置を明確にすべく開発されたという。 ランドクルーザー一族はこれまでに世界170カ国に導入され、年間30万台以上を販売(直近では36万台弱)、累計台数は1151万台を超えるという。しかも販売台数の9割が海外市場向けである。 世界一の自動車メーカーであるトヨタにはカローラやRAV4といった単一銘柄で年間100万台以上のセールスを誇る人気モデルもあるが、SUVの隆盛に伴って「本物っぽくてカッコいいよね」と世の中の目がランクルに向けられるずっと前から、世界各地で黙々と働き続け、結果として世界中でトヨタの評判を築き上げたのは間違いなく「ランクル」であると私は思う。 ◆SUVとは呼ばれたくない ランドローバー・ディフェンダーとジープ・ラングラーの2台もまた、押しも押されもせぬ本格派のSUV、いやヘビーデューティーなクロスカントリー・ビークルとして欧米を代表する車である。 こちらもざっとおさらいすると、ランドローバーは1948年誕生。「ディフェンダー」の名が与えられたのは1990年からで、前年にデビューしたディスカバリーと混同されないためと言われている。現行型は2019年発表、1990年以来初めてのフルチェンジである。外観には従来型のモチーフを残しているが、何よりもアルミ・モノコックボディに一新されたのが大ニュース、インターフェースや操作系も一足飛びに新しくなって、インパネを眺める限りレンジローバー各車と変わらない。 日本導入当初は2リッター4気筒直噴ターボのみだったが、今や3リッター直6ディーゼル+マイルド・ハイブリッドもV8ガソリン+スーパーチャージャーも用意され、ボディも3ドアの90、ロング・ホイールベース5ドアの110、ボディが長い130をラインナップしている。変速機は8段ATでランドローバーの他のモデル同様、ロー・レンジの切り替えもすべてモダンなスイッチで操作するのが新しい。 言わずと知れたジープ・ラングラーはあらゆるRVやSUVのご先祖様に当たるオリジナル・ジープの遺伝子を最も忠実に受け継ぐ末裔だ。ご存知の通り、もともとのジープは第二次大戦中の1941年に軍用車として誕生(民生用は1945年から)、紆余曲折あってクライスラー参加となった1987年以降はラングラーの名が与えられた。 2018年にモデルチェンジした現行JL型はラングラーとなってからは4代目に当たる。導入当初は5ドア仕様のアンリミテッド・スポーツで500万円そこそこの値付けであり、若い世代にも手が届くぐらいの価格帯も手伝ってセールスは好調で、2020年の国内販売は約5800台、2021年はおよそ7000台と、ジープ・ブランドを、ひいてはステランティス・ジャパンを支える主力モデルだったが、その頃からの円安ドル高による度重なる値上げの影響はてきめんで、2022年(一年間で3度も値上げした)の販売台数は約3800台に急減、昨年はおよそ4000台だった。 今年春のマイナーチェンジでは2022年にいったん廃止されていたベーシック・グレードのスポーツ(799万円)を復活させ、他のサハラ(870→839万円)とルビコン(905→869万円)についても価格を若干下げたが、装備が充実したとしても正直苦しいところだ。 ◆三拍子そろっている というわけで、実力・人気・伝統の三拍子そろった3台は、クロスカントリー4WDのワールドカップ代表として文句のない顔ぶれである。 新型250に用意されるパワートレインは2.8リッター直4直噴ディーゼルターボ(8段AT)と2.7リッター直4ガソリン(6段AT)の2種類。グレードは前者がZX/VX/GX(これのみ5人乗りで他は7人乗り)。後者はVXのモノグレードだ。 今回の試乗車はディーゼルの最上級グレードZXだ。250のメカニズムは兄貴分の300に準じている。300で新開発されたフレーム構造プラットフォーム(GA-F)を250用に改良して採用、センターディファレンシャルにトルセン式LSD(電磁式ロック機構付き)を備えたフルタイム4WDシステムも300同様。また先代に当たる150系プラドに比べると一気に大型化されたボディの寸法は、4925×1980×1935mm(ZXグレード)というもので、実は旗艦モデルたる300に比べて全長が70mmほど短いことを除けばあまり変わらない。ホイールベースは黄金律として維持されてきた2850mmで300と同一。違うのは同じディーゼルZX(300は3・3リッターV6ディーゼル・ターボ)で比べた場合、200kg近く軽い車重と電動パワーステアリング、そしていわゆるホイール・アーティキュレーション(300の方がホイール・ストロークが長い)である。 竦むような巨岩が転がるオフロード・コースですでに体験済みだが、150kW(204ps)/3000~3400rpmと500Nm/1600~2800rpmを生み出すディーゼル・ターボは特に低速での扱いやすさが印象的で、また電動パワステは普通なら覚悟するような岩を乗り越えた際も、まるでキックバックがなくむしろ戸惑ったほどだ。オンロードでも同様の印象ながら、さすがにおよそ2.4トンの巨体ゆえ、高速道路の合流ランプなどでは正直加速はいまひとつ。乗り心地もフレーム構造+後輪リジッドに由来する横揺れも感じるが、300のデビュー直後に気になったピッチングはほぼ解消されている。そもそもこれは他の乗用車ベースのSUVと比較した場合の話で、従来型プラドと比べれば明らかに洗練されており、300と比べてもはっきり軽快だ。これで520万円(GX、ZXは735万円)からという価格は、今時ちょっと安すぎるのではないだろうか。 ディフェンダー110D300は、3リッター直6ディーゼル・ターボ(4300ps/650Nm)に48Vマイルド・ハイブリッド付きで、さらにはエア・サスペンションも装備するだけに価格も856万円から(MY2024)と、正直言ってクラスが違う。トラック然としたワークホースだったかつてのディフェンダーとは違い、今やレンジローバー譲りのプレミアム4WDである。ディーゼル・エンジンは48Vマイルド・ハイブリッドのおかげで始動はもちろん、全域でスムーズで滑らかで静粛だ。オンロードの乗り心地も別格である。 センターに加えて前後にもデフロック機構を備える硬派モデルのラングラー・ルビコンのパワートレインは他のグレードと同じく、272psと400Nmを生み出す2リッター4気筒ターボ+8段ATで、セレクトラック・フルタイム4×4と称する4WDシステム(2H/4WDオート/4H/4L切り替え式)も、重く渋い切り替えレバーも従来通りである。比較的軽量(2110kg)とはいえ2リッターターボでは心許ないと思うかもしれないが、意外や踏めばかなり敏捷に走れるのがラングラーである。現行JL型ラングラーは、それ以前のモデルとは同列に語れないほどオンロードでの扱いやすさが向上したことが特長で、直進性ひとつとっても段違いに現代的に進化している。ただしこのルビコンにはいかにもゴツイ見た目のマッドタイヤが装着されており、そのせいでステアリングの手応えがちょっと曖昧だった。 ◆唯一無二の存在 プレミアムに移行したディフェンダーと、野山を駆け回るスポーツ4WDとしてのポジションを守るラングラーに対して、現代的に進化しながらもワークホースとしてのポリシー(信頼性、耐久性、悪路走破性)を堅持するランクルは気が付けば唯一無二の存在になっている。その本物度がお洒落で乗りたい人の心もつかんでしまうのだろうが(もちろんそれでも結構なのだが)、持て余さないかどうかだけは確認してほしいというのが、老婆心ならぬオジサン心である。 文=高平高輝 写真=神村 聖 (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部
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