バラバラに割って不正売買か。メトロポリタン美術館が古代ギリシャ酒器をイタリアに返還
メトロポリタン美術館(以下、MET)は、略奪された可能性が高いと判明した古代ギリシャ時代の酒器をイタリア政府の関係部署に返還した。キュリクスと呼ばれるこの陶器製の酒器は紀元前490年頃に制作されたもので、ここ15年の間に保存修復師が破片をつなぎ合わせて復元している。 この酒器の形状や色合いは、METが2022年にイタリアに返還したキュリクスとほぼ同じだ。2022年の返還品は、イタリア政府からの要請に協力してきたニューヨークの当局による古美術品の不正売買捜査で見つかっている。今回の酒器返還を最初に報じたニューヨーク・タイムズ紙によると、2つの遺物の破片は略奪行為に関係する人物が一時的に所有していたとされるが、詳細は明かされていない。 METは1970年代後半からキュリクスの破片を収集していた。研究者や捜査関係者は、密輸・不正売買時に税関の目をかいくりやすくするため、バラバラに割られたと考えている。たとえば、ヘッジファンドで財を築いた億万長者で、ニューヨーク大学の後援者でもあるマイケル・スタインハートから古美術品を押収したマンハッタン地方検事局は、2021年12月に提出された法的文書の中で、遺物が「容易に修復可能な断片である場合、それは略奪されたことを示すことが多い」と主張している。 ニューヨーク・タイムズ紙によると、専門家の調査で2022年に返還された酒器との類似点が判明したため、METは昨年、もう1つの酒器の法的所有権を内々にイタリアへ移転したという。一方のイタリア政府は、長期貸与契約の一環として、2022年返還の酒器をMETで展示し続ける措置を取った。昨今METでは、こうした方法を講じるケースが増えている。それは、文化財保護制度がより厳しいものになる中、略奪文化財の返還と外国政府との関係維持を両立させるための苦肉の策と言えるだろう。