「新型プリウス」何が変わったのか? トヨタのクルマづくりの転換点
モデルチェンジしたプリウスが売れている。発売初日の集計でなんと6万台。販売計画は月販1万2000台ということだから、余裕のクリアである。もっとも発売月に目標販売台数をクリアしないようならそれは大失態だ。要はその上回り具合が肝要なのだが、悪くて3万台、良ければ5万台くらいだと筆者は見ていた。しかしふたを開けてみれば初月のトータル販売は10万台に達した。新型の好評のせいで旧型プリウスは査定額が20万~30万円も下がったというのだ。 【写真】ハイブリッド車の草分け 旧型プリウスの何がスゴイのか?
トヨタ「旧型とぜんぜん違う」
新型はそんなに違うの? と問われれば、筆者は「もう全然違う」と答える。そのくらい劇的に変わっている。トヨタがTNGA(Toyota New Global Architecture)という全く新しいクルマづくりの方法論を構築したと発表したのが2015年3月のことだ。「もっといいクルマづくり」として発表されたそれは、クルマの設計改革のみならず、生産、調達、人材育成に至るまで、クルマづくりの全てを改革するというプランだった。そのTNGAが現実の製品となって現れた第一号がこの新型プリウスである。 プリウスと言えば何よりもまず燃費性能だ。新型では最も燃費の良いモデルでついにリッター当たり40キロを越える40.8キロを記録した。もちろんこれはいわゆるカタログ燃費で実効燃費はそれより落ちるはずだが、その落ち方も旧型に比べれば少なくなるケースが多いはずだ。 それは速度マネージメントが旧型比で向上しているからだ。最近の低燃費車は「コースティング」という制御が行われている。それはアクセルをオフにした時、エンジンブレーキをできるだけ効かさずに、グライダーの様に滑空させて距離を稼ぐ技術だ。燃料噴射システムはこの間、一切の燃料を吹いていない。だから箱根の上からコースティングを使って降りてくると、その間の燃費はリッター70キロなどと言う飛んでもない数値を示したりするのだ。 ドライバーにとってエンジンブレーキが使えないことは必ずしも気持ちの良い制御とは言えないが、CO2排出量の削減が喫緊の課題である以上、コースティングは避けては通れない。何故なら燃料消費量はCO2排出量と限りなく同義であるからだ。 さて旧型プリウスの速度制御の問題点はこのコースティングからの緩加速の時にあった。先行車に追いついて速度差を合わせながら再加速に入ろうとした時、旧型プリウスはアクセルを踏んでも反応しなかった。仕方なく徐々に踏み足して行くが、それでも反応しない。ようやく反応するころには先行車との車間距離が伸び過ぎているし、エンジンの回転がブワーンと吹き上がり、エコメーターは一気に赤いところに到達してしまう。これがとてもストレスになる。 もっと緩やかにドライバーの望むタイミングで加速して欲しいのだが、それができない。どうしても「今だ!」というタイミングで加速したければ、アクセルをワイドオープンにするしかなく、そうなると、エンジンとモーターの力を合わせると結構速いプリウスは猛然と加速してしまう。まるでキレた様なマナーの悪い運転になりがちだったのだ。これが旧型プリウスの実効燃費を低下させていたはずなのだ。速度のマネージメントがしやすくなればこんな燃費に良くない運転をする人は減るだろう。 新型プリウスではこの加速のシークエンスが遙かにまともになった。理想を言えばキリがないが、低燃費スペシャルとしてのレコードを叩き出しながら、このインターフェイスが改善されたことの意味は大きい。プリウスの一番大きな欠点が是正されたのだ。リッター40キロの燃費との兼ね合いを見れば、筆者はとてもこれを不合格にはできない。だが、まだまだ自然なフィールにする余地は残っている。