「新型プリウス」何が変わったのか? トヨタのクルマづくりの転換点
対して新型のダブルウィッシュボーンは、トレーリングアームをアッパー側に使い、ロワー側を2本のアームに分割する珍しい形式が用いられている。この変わった編成のサスペンションの狙いは、おそらくスペースの抑制と部品点数の低減にあるだろうが、性能面にも知恵が絞られている形跡が見て取れる。 ポイントは二つ。一つは前後方向の入力を主にアッパーアームで、左右方向の入力を主にロワーアームで受け止める様に作られており、アッパーアームのゴムブッシュ容量を大きく、ロワーアームのゴムブッシュ容量を小さくしてある。これにより、前後や上下の振動はできる限りアッパーアームの大容量ブッシュで吸収し、左右方向の力には容量の小さいブッシュが備わるロワーアームが支えて、タイヤの位置決め(向き)が狂わない様に考えられているのだ。 もう一点の工夫は、アッパーアームのシャシー側、つまり揺動軸の高さをできる限り高く取るように作られている点にある。車軸の高さに対して揺動軸の位置を高くすると、こぶを乗り越えたの時のサスペンションの動きが穏やかになる。アームの幾何的な動きの方向と力の受け流し方向が接近するからだ。 もちろんサスペンションが変えられたことには背景がある。それには高剛性ボディが必須なのだ。いくらサスペンションでタイヤの向きを正しく保持しても、フレームに十分な強度がなければ意味がない。1990年代には国産車にも多くのダブルウィッシュボーンサスペンションの採用例があったが、結局シャシー剛性が足りずに活かし切れないということで、多くのクルマがローコストな中間連結型トーションビームに収束していった経緯があるのだ。新型プリウスではシャシーの剛性を60%向上させている。そうした基礎的な部分の能力向上があって、初めてダブルウィッシュボーンが活かせるのである。 これらの工夫はどんな結果に表れているのだろうか? まず位置決め剛性のアップによって、直進安定性が高まっている。新旧のプリウスを比べると直進安定性の差は歴然で、H型アームがズレを起こす旧型と比べて、新型はずっと安心して走れる様になっている。これは運転中のほとんど全ての時間に効いてくるので、クルマの性能向上としてはとても大きい。ただし、新型の直進安定性がずば抜けて優れているわけではなく、普通で自然なものになっただけだ。旧型のレベルが低かったと言った方が正確だろう。 またこのリヤタイヤの位置決め剛性のアップによって、ステアリングを切り返した時の舵抜け感が是正された。右にズレていたリヤサスが、反対に振れる瞬間、クルマの動きがわからなくなる。新型ではその間に急変が無くなり、ずっと安定した手応えで切り返しが出来るようになった。 取り付け位置が高く取られた揺動軸は、大きなうねりを乗り越える時に明らかに効いている。旧型では一瞬リヤタイヤの接地感が喪失して、再び接地する時スキール音が発生するような場所で、新型はグリップ感が薄くなるものの途切れずに路面を捉えていた。