城氏が現地で見た歴史的名勝負。C・ロナウドの何がどう凄いのか?
W杯の歴史に残るような名勝負だったと思う。試合会場のあるソチは、モスクワから飛行機で約2時間。気温も大きく違い、日中は30度を越える真夏日だった。フィシュット・スタジアムは、海沿いにあることから、湿度も70パーセントを超えるほど高く、汗ばむ気候だった。決して選手にとって好ましい環境ではなかったが、グループリーグ屈指の好カードにふさわしい試合を見せてくれた。4万3000人を越えた客席は、どちらかと言えば、スペインのサポーターが多かった。逆転しながらも1点のリードを守りきれなかったスペインにとって負けに等しい悔しい3-3のドローとなったが、スタジアムは興奮の坩堝。観客がひとつひとつのプレーに身を乗り出すようにのめり込んでいた姿が印象深かった。それほど濃厚でハイレベルな試合内容だった。 ポルトガルの3点はC・ロナウドがすべて叩き出した。ワンマンショーである。 ポルトガルは、その立ち上がりの数分間、うまく守備ブロックをかため、セカンドボールをとりにいく意識を徹底して主導権を握る。サイドチェンジをうまく使い、スペイン守備のバランスを崩した。開始わずか4分にロナウドが記録した先制のPKは、実は、意図的に誘って取ったファウルだ。 ボールを跨ぎながら直線的に突破。ナチョは足を出したが「シミュレーション」ギリギリの倒れた方だった。 前半終了間際に2-1と勝ち越したゴールもロナウドの計算されたシュートだった。後方からのロングパスをゲデスが落とすと、オフサイドポジションにいたロナウドは、正規ポジションに戻ってきて、左足でグラウンダーのシュート。キーパーのデ・ヘアが正確にキャッチできずに弾いてしまったボールが、コロコロとゴールラインを割った。会場のファンは「デ・ヘアのミスだ」と騒ぎたてていた。 確かに名キーパーらしくないシンプルなミスではあるが、ロナウドは、あそこはコースを狙うのではなく、地を這うような無回転のボールを強く蹴りにいった。試合前には、ピッチに水が撒かれ、フィールドの芝はかなり滑る状態にあった。それらを見越した上で、ああいうミスを誘う前提での計算ずくのシュートを打ったのである。それも目が覚めるようなパワフルなボールをだ。 スペインサポーターに悲鳴を上げさせたのが、後半44分の同点FKである。スペインが作った壁の位置が近すぎるように思えたが、ロナウドは、ボールに縦回転をつけて、身長190センチ近くある高いブスケツの頭を越してみせたのである。ゴールの外側からボールを落としてネットを揺らす。もう神業である。 実は、このゴール正面、20メートルの絶好の位置で得たファウルも計算ずくの仕組まれたプレーだった。ゴール前でゴールに背を向けてボールを受ける寸前に、ロナウドはピケに体を寄せておいたのである。この位置で、ボールをキープすれば、必ずピケが手を出すと誘ったプレー。ピケはロナウドの思惑通りに両手で体を突いて笛を吹かれた。 ロナウドも33歳。ゲームを見ていると、量より質に特化しているのがわかる。 2つのペナルティを奪ったシーンや、カウンター攻撃の際に、連動してのスピード感溢れる動き出しなど、ここぞという決定機には、100パーセントの力を出すが、この試合でも途中ピッチから消えてしまっていた時間帯があったように、20、30パーセントの力で流す、スタミナ温存の時間も作りながら、今の年齢の体力に合うようにゲームをトータルでマネジメントしている。試合の最初と最後。ポルトガルは、そのわずか数分で、スペインのミスを誘って勝負をドローにもちこんだが、そこでロナウドは神がかり的な集中力を見せたわけである。