軽商用EVに見るホンダの「超本気」EVシフト、三菱商事との協業に潜む「狙い」とは
エンジン商用車と圧倒的に違う「乗り心地」
ではN-VAN e:の性能面はどうなのだろうか。 筆者が実際に運転したところ、アクセルペダルを踏むと、かなり勢いよく発進した。これは、軽商用車として300~350kgの荷物を積んでも、ゆとりある発進ができるようにした性能の証だ。 シフトボタンをDからBへ切り替えると、アクセルペダルを戻した際の回生の効きが強まる。完全停止まではできないので、ワンペダル機能とは言えないが、市街地などでこれを常用すれば、操作が楽になるだけでなく、ブレーキパッドの減りを抑えられ、保守管理費を低減できるだろうと想像できる。 路地など含めカーブを曲がる際は、床下に搭載された29.6kWhのリチウムイオンバッテリーによって、低重心となり、操縦性が安定する。これに、トルクの大きなモーターの出足を合わせると、かなり壮快な走りを満喫できる。 また、EVであるから、当然ながら静粛性に優れる点も特徴だ。一般に、商用車はエンジン音による車内騒音が大きく、運転していて疲労感を感じる傾向がある。これは、車両価格を下げるため遮音材や防音材が省かれているという事情に起因する。 しかし、モーター走行であるEVなら、乗用車のように静かだ。なおかつ前述したように、バッテリーの重さが加わり乗り心地も落ち着く。 つまり、EVになると商用車が乗用車のような乗り味となり、運転中の疲労が大幅に軽減される。仕事を終えて駐車場に戻れば、そのまま夜間に充電することで翌日の支度が整う。あえて、仕事帰りにガソリンスタンドに立ち寄る必要もない。排出ガスゼロという環境対応だけでなく、労働環境も良くなるのが、商用EVの利点だ。
三菱商事との「新会社」設立は何を意味する?
N-VAN e:に関連して、ホンダは新たなビジネスの展開も始めている。 同社は今年7月、EV利用コストの最適化/バッテリーの価値向上と資源循環/系統用蓄電池の調整などを事業内容とした新会社ALTNA(オルタナ)を三菱商事と設立した。 オルタナが手掛ける事業の1つがバッテリーのリース事業だ。 両社の発表によると、ホンダおよび三菱商事の関連リース会社が車両リースを行う際、EVバッテリーの所有権をオルタナが持ち、バッテリー使用状況をもモニタリングすることで、中古車になってもバッテリーを有効活用できるよう管理したり、車載利用期間の終了後に系統用蓄電池への再利用につなげたりするという。 リース契約によって、再利用のための中古バッテリーの確保がより確実になる。EV利用時の電力料金を最適化する充電管理や、VtoGのような電力需給の調整といった事業への足掛かりにもなるだろう。 同様の取り組みや試行錯誤は、2010年に初代リーフを発売した日産がすでに手掛けている。そこにホンダと三菱商事が目を向けたことは、N-VAN e:の販売を後押しし、ホンダの次期EVの拡販にもつながるだろう。 このほかにもオルタナは今月10日、ホンダやMCリテールエナジーなどとともに、充電を自動で最適化する「スマート充電」に関する実証を開始したことも発表している。ホンダは2040年までに新車販売の車種をすべてEVとFCV(燃料電池車)にする目標を2021年に掲げているが、その本気度が、これらの新事業からも見えてくる。 補助金の活用があるとはいえ、原価に厳しい商用の軽自動車でエンジン車との差額を圧縮し、加えて、乗用車のような快適な乗り心地と走行性能を備えたN-VAN e:。EV普及においてどんな役割を果たすのか、注目していきたい。
執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣