「料理とは、自分の人生そのもの」ーー主婦目線の「おいしい」をとことん信じる、栗原はるみの流儀
「惜しげを持っちゃいかんでしょ。潔くいかないと。見てる人から喜ばれないと、しょうがないじゃない」 ちなみにYouTubeで「栗原はるみ」を検索すると、本人不在のレシピ再現動画がいくつも出てくる。こうした状況も、意に介さない。 「世に出されているものは、仕方ないよね、止められないし。うん、大丈夫。さらにいいレシピを出しますよ、何かそういう感じかな」
夫の死後、栗原を襲った喪失感
玲児さんと一緒にテーブルの前に座って。 玲児さんにも大好きだったこのグラタンを。 玲児さんに夢でいいから会いたい。 2019年夏、夫(元キャスターの栗原玲児)が死去。 以来、インスタグラムの文章に、夫への思いを一言書き添えるようになった。 「玲児さんに嫌われたくなかった」と栗原は言う。 料理家として十分に成功してからも、夫への思いはずっと変わらなかった。
「私は、夫にものを頼んだことがないんです。たまたま聞かれたら頼むこともあったけれど。なんでも自分でやるんですよ、相手に期待しないの。だから、好かれたと思う。夫は、私のこと大好きだったと思いますよ。だって、嫌なことはしないから。私は、夫に嫌われたくなかったんです。だって、困るじゃない? たった一人の相手に、嫌われちゃったら」 夫の死後、栗原を襲った喪失感は、想像を絶するものだった。眠れない、食べられない。もともと細身の体が、みるみる5キロ減った。絵に描いたような、抜け殻状態。 「頼ってきたからね……精神的にも、全部。彼が亡くなってから、いつも一緒に食事をしていたスペースでは、ご飯が食べられなくなっちゃった。子どもたちも独立してますから、一人でしょう? やっぱり、寂しいですよね。最近もね、いつもスタッフは19時に仕事を終えて帰っちゃうんだけど、『いいワイン飲ませるから』って1時間くらい引き留めちゃったり(笑)」
料理とは、自分の人生そのもの
「しばらくは泣いてばかりだった」という栗原だが、家族と友人たちに助けられ、少しずつ前を向くようになった。息子(料理家・栗原心平)に勧められたのは、「残りの人生で“やりたいことを100個”見つける」という作業だ。栗原は、スマホのメモ画面を眺めながら言った。 「こうやってね、書き出してるの。100個って、けっこう大変よ。40くらいは書いて、そのうち八つにはもう取り組んでいるんです。“ボイストレーニング”とか、“キッチンの改装”とかね。まだまだやりたいこと、見つけていきますよ~。コロナが落ち着いたら、また大好きなハワイや韓国にも行きたいし、玲児さんが残したメモにある場所にも行ってみたいな。年をとって卑屈にならないようにね、自分の道をスイスイ行かなくちゃ」