千賀、牧原、甲斐ら同期の活躍が刺激 ポール命名権、アジフライ…球団で奮闘するソフトバンク元投手
4年ぶりのリーグ優勝を果たしたプロ野球・福岡ソフトバンクホークス。日本一こそ逃したものの、一時は史上初の100勝ペースで勝利を重ねた今季の進撃ぶりは、多くの野球ファンを魅了した。選手たちの努力だけでなく、球団関係者やファン、地域の後押しがあったからこそ、つかみ取った歓喜のリーグ制覇だった。ユニホームを脱いだ後、セカンドキャリアとして球団を支えている元選手たちの熱い思いに迫りたい。(大窪正一) 【写真】入団時の「育成黄金世代」、スタッフとして子どもたちの指導に励む高橋純平さん
棒ラーメンポール命名権導入
育成枠で7年間プレーした元投手、伊藤大智郎さん(31)は営業本部社員として約60社との取引を担当する。「マルタイ棒ラーメンポール」として知られる本拠地、みずほペイペイドームのファウルポール。即席麺製造・販売の「マルタイ」(福岡市)の看板商品を生かして2022年シーズン、全国的に注目された球界初のファウルポール命名権の導入を仕掛けた。 ポールのそばに立ち、伊藤さんは「ホークスには感謝の思いしかない。引退後も球団の仕事に携わることができ、本当に運がいい」と話す。今季は、本拠地の新名物グルメ「鷹たかのアジフライ」を送り出し、好評を博した。 細身のサイド右腕だった伊藤さんは、愛知県の誉高から育成ドラフト3位で11年に入団。4位は同じ愛知の蒲郡高出身の千賀滉大投手(現米大リーグ・メッツ)で、5位は牧原大成選手、6位が甲斐拓也選手と「育成黄金世代」だった。 背番号127の伊藤さん、128の千賀投手。「高校時代は愛知で僕の方が有名だった」と対抗心を燃やしたという。入団2年目に千賀投手が支配下登録を勝ち取ったことを知ったのは、3軍の韓国遠征中だった。「悔しさのあまりその夜は眠れず、おめでとうと言えたのは、何カ月も後だった」と当時を懐かしそうに振り返る。15年に巨人とのオープン戦で1軍マウンドに立つなど、負けじと奮闘したがけがにも苦しみ、育成のまま17年オフに戦力外となった。 一方で球団からは人柄や努力家であることが評価され、社員への転身を勧められた。「パソコンの使い方すら分からなかったが、恩返しがしたかった」。新たな挑戦を決意した。ファンサービスの部署で2年間、ようやく慣れてきた頃に営業への異動を告げられた。 「営業は大変そうで正直、嫌でした」。異動した当時は新型コロナ禍でもあった。無観客や入場制限もあり、「広告を出していただく企業を回る毎日。初めての経験で、どうしたらいいのか悩んだ」。聞き役に徹することにした。心を砕いたのが「相手の思いにどう応えるか」。少しずつ道が開けていった。 「マルタイ棒ラーメンポール」も、営業中の雑談で「ポールが棒ラーメンに似ている」と言われたのがきっかけ。鷹のアジフライも、看板広告を出す製造元の三陽(福岡市)から「自社製品をもっと食べてほしい」という相談を受けたのが契機となった。「一人では何もできなかった。最初にチャンスをくれた球団をはじめ、周囲の支えのおかげ」とかみしめる。 千賀投手や牧原選手、甲斐選手ら同期の活躍は刺激になっている。「少しでも長くプレーしてもらいたい」とエールを送り、「私も自分の持ち場でホークスを支えたい」と誓う。