イッカクとシロイルカなど、温暖化で北極圏での交雑が増えるかも、するとどうなる?
気候変動と交雑の複雑な関係
北極圏の交雑種は、偶然生まれることもある。とはいえ、気温が上がり、海氷が解けることは、ある種と別の種を分ける障壁が取り除かれるということでもある。 海氷が失われれば、ホッキョクグマは食べものを探して新しい土地に足を延ばす。また、気候変動によってハイイログマが北に移動する。その結果、繁殖期に二つの種が遭遇する場所が増えることになる。 リブキン氏らは、新たな交雑種が現れているかどうかを調べるため、カナダ、アラスカ、グリーンランドのクマの1975年から2015年にかけてのDNAサンプルを収集し、ホッキョクグマ、ハイイログマ、そしてその交雑種の遺伝子を探した。調査した800頭以上のうち、交雑種は既知の8頭だけだった。 「驚きました」とリブキン氏は話す。「ハイイログマやホッキョクグマの交雑種を外見だけで区別するのは本当に難しいので、遺伝子を調べれば隠れた交雑種が見つかると思っていました。しかし、調査結果から、交雑はかなりめずらしい現象であると考えられます」 それでも、既知のクマの交雑種は、温暖化の結果である可能性は高い。そして、今後これが問題になり続けるだろうという点も変わらない。リブキン氏は、「クマの監視を続け、もし交雑が起こったなら、保護管理戦略を適切に調整する必要があります」と話す。 北極圏で起きている交雑が、気候変動のせいであることを示唆する証拠もある。 ノルウェーのスバールバル諸島のある島で、パフィン(ニシツノメドリ)の交雑種の数の変化を追跡した研究から、体の大きい北の亜種が生息域を南に広げ、1910年以降に南の小さな亜種と交雑するようになったことがわかった。論文には「この交雑種の出現は、人間による北極圏の温暖化が始まった時期とぴったり重なっている」とある。 さらに昔に目を向ければ、ホッキョクグマとヒグマは60万年前に枝分かれしたものの、気候変動によって生息域が重なり、交雑を続けたという説もある。この枝分かれが起きた時期は、7万年前から500万年前まで幅広い説があるが、現在のアラスカのヒグマにホッキョクグマの遺伝子が残されている可能性もあるという。