イッカクとシロイルカなど、温暖化で北極圏での交雑が増えるかも、するとどうなる?
ホッキョクグマとハイイログマ、シロナガスクジラとナガスクジラ、パフィンも
2006年、あるハンターがカナダのノースウエスト準州でクマを仕留めた。白い毛皮に茶色い斑点があり、爪は長く、ハイイログマ(グリズリー、ヒグマの亜種)のようなこぶがあった。この奇妙なクマは、ホッキョクグマとハイイログマとの交雑種であることがのちにわかった。 ギャラリー:クマ、イルカ、パフインなど温暖化に翻弄される北極圏の動物たち 写真7点 2010年、再び交雑種が見つかり、学術誌「ネイチャー」は解説記事で、気候変動によって北極圏で交雑が加速すると警鐘を鳴らした。以後、ホッキョクグマとハイイログマとの交雑種は、合計8頭確認されている。いずれも大きな話題となった。そして、そのすべてが同じメスのホッキョクグマの子孫だった。 温暖化が進むなか、2024年6月13日付けで学術誌「Conservation Genetics Resources」に発表された論文で、最新の状況が明らかになった。カナダのマニトバ大学で進化生物学を研究しているルース・リブキン氏らが北極圏のクマたちの遺伝子を分析したところ、交雑するホッキョクグマはそう多くはなかった。ただし、現時点ではだ。分析では交雑の古い証拠が見つかり、やはり「継続的な監視が必要」と指摘した。 「私たちは交雑率に注目しています。北極圏の温暖化とともに、ハイイログマとホッキョクグマが接触する機会がどんどん増えているからです」とリブキン氏は言う。 北極圏で交雑する種はクマだけではない。多くの交雑種は、外見だけではわからないので、遺伝子分析が非常に重要になる。動物のDNAを詳しく調べることで、交雑が起きている可能性を明らかにすることができる。 しかし、そこから浮かび上がってくるのは、答えではなく新たな謎であることのほうが多い。
イッカクとベルーガの「ナルーガ」も
通常、動物は種を越えて子孫を残すことはない。地理的な障壁など、さまざまな障害があるからだ。しかし、種や亜種が交配相手を求めて普通は重なることがない場所に足を踏み入れたりすると、交雑種が生まれることがある。 たとえば、シロイルカ(ベルーガ)とイッカクは、500万年前ごろに進化の系統で枝分かれした種だが、グリーンランド西部のディスコ湾で交雑することがある。あるハンターが1990年に見つけた奇妙な頭蓋骨は、のちにシロイルカとイッカクとの交雑種と提唱された。 スウェーデンにあるルンド大学のミッケル・スコブリンド氏は、2019年に行われた最新の遺伝学的手法によるこの頭蓋骨の再評価に参加した。その結果、これが「ナルーガ」と呼ばれる交雑種であり、1970年代以前に生まれた個体であると確認された。