無料通話の「Rakuten Link」がAIでポータル化を促進。ユーザーに受け入れられるのか
10月21日に、MVNOによるサービスなどを含む契約数が全体で800万回線を超えたことを発表した楽天モバイル。そのうち企業向けのBCP(事業継続計画)用回線や、他社のMVNOに貸し出している回線を除いた携帯電話サービスの契約回線数自体は729万なのだが、BCP回線を含め600万回線を突破したことを発表したのが2023年12月28日であることを考えると、1年に満たない期間で100万回線以上を伸ばしていることは確かだ。 【画像】実際にRakuten Link AIを使ってみたところ 楽天モバイルがそれだけ短期間で契約数を大きく伸ばしたのには、法人契約の伸びに加え、「最強家族プログラム」など2024年に相次いで提供を開始した割引施策が大きく影響したと見られている。ただ一方で、ここ最近楽天モバイルの急速な伸びを意識してなのか、競合各社も料金面で対抗施策を打ち出してきている。 NTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」が今年10月、月額料金はそのままに通信量を30GBに増量したことも、その一つと見ることができるだろう。この動きに合わせて競合各社も、ahamoと同じ「中容量」に分類される料金プランの改定を進めており、料金的に近しい楽天モバイルの契約拡大にも今後影響が出る可能性がある。 ■競合各社が対抗施策を打ち出すなか、同社が力を注ぐ「Rakuten Link」 それだけに楽天モバイルに求められるのは、料金だけによらずサービス面でいかに顧客をつなぎとめるか、ということである。そこで同社が、サービスの軸としてここ最近力を入れているのが「Rakuten Link」である。 Rakuten Linkは元々、SMSの発展形というべきRCS(Rich Communication Services)の技術を用い、国内向けの音声通話やSMSが無料でできるコミュニケーションアプリとして提供されていた。だが楽天モバイルは2023年10月、Rakuten Linkに「ホーム」という機能を追加して以降、その位置付けを大きく変えている。 より具体的に言えば、Rakuten Linkを楽天グループのサービスを利用しやすくする、楽天モバイルのポータルアプリへと位置付けを変えたのだ。実際現在のRakuten Linkは、起動すると最初にホーム画面が現れ、「楽天市場」「楽天トラベル」など楽天グループのさまざまなサービスへアクセスしやすくなった一方、無料通話やSMSを利用するにはボタンを押して別画面に遷移する必要がある上、通話終了後に広告が表示される場合もあるなど、コミュニケーションアプリとしての利便性は下がっている。 そして楽天モバイルは、Rakuten Linkをポータルアプリとして一層強化を図っていく方針を示している。10月31日に同社が実施した記者発表会では、従来電話マークを採用していたRakuten Linkのアイコンを、楽天グループを示す「R」のマークへと変更。ポータルアプリとしての位置付けをより明確にしている。 それに加えて、ポータルとしての機能強化を図るべく、新たに別アプリの「my 楽天モバイル」で提供している機能の一部を追加。Rakuten Link上で通信量や料金を把握できるようになったのに加え、もう1つの新機能として「Rakuten Link AI」の追加も打ち出している。 これはチャット形式でさまざまな質問に答えてくれる、いわゆるAIチャットの一種。AIチャットは昨今の生成AIブームで大きな注目を集めたもので、米Open AIの「ChatGPT」や、米Googleの「Gemini」などがその代表例として知られている。 Rakuten Link AIの具体的な使い方は、一般的なAIチャットと大きな違いはなく、文章でAIに問いかけることで知りたいことに答えてもらったり、アイデアを出してもらったり、旅行などの計画を立てたりすることが可能だ。ただしRakuten Link AIは、楽天モバイルユーザー専用のツールとなるため、楽天モバイルユーザーであればアカウントを別途作成する必要なく、Rakuten Linkから簡単に呼び出すことが可能だ。 またこうしたAIチャットは、高性能のものを利用するには料金がかかることが多いのだが、Rakuten Link AIは現在のところ、楽天モバイルユーザーであれば無料で利用できる点も大きなメリットといえる。ただし1日のチャット数の入力上限は50回、1回の質問につき文字数は500文字以内と、利用に一定の制約は設けられているようだ。 同種の取り組みとしては、ソフトバンクが2024年6月より実施している自社サービスの利用者に対して、AI検索サービス「perplexity」の有料サービスを1年間無料で提供するキャンペーンが挙げられる。そちらと比べた場合、期間による制限がなく無料で利用し続けられる点がメリットだが、実際に使ってみると精度の面ではまだ課題があり、実際に試してみると質問内容によっては誤った回答や古い回答なども少なからず見られた。 それゆえ現時点において、Rakuten Link AIを提供することのメリットはあまり多くないように思えるのだが、これを楽天グループの各種サービスと連携できるようになれば話は大きく変わってくる。AIチャットと相談しながら、例えば楽天市場でプレゼントを購入したり、楽天トラベルで旅行の予約をしたり、あるいは「楽天証券」で株を購入したり……といったことができるようになれば、その利便性は大幅に高まるだろう。 実際楽天モバイルでは、将来的にRakuten Link AIと楽天グループの各種サービスを連携させたパーソナルコンシェルジュへと進化させていく方針を示している。しかも楽天グループは、各種サービスで培った豊富なデータを保有していることから、それらデータをAIに学習させることで、より顧客に最適な提案ができる仕組みを実現できる可能性も考えられる。 そうした将来を考えるならば、Rakuten Link AIには大きな可能性があるとも感じるが、一方でそれを実現するには必然的に顧客のプライバシー情報をAIと連携させていく必要も出てくる。とりわけ生成AI関連のサービスは、ユーザーが入力した情報を再学習に用いるケースもあるだけに、プライバシーを含む情報を学習してしまうことに懸念を示す向きは少なくない。Rakuten Link AIを進化させていく上では、プライバシーの壁をいかにして乗り越えるかが問われることは間違いない。 また、楽天モバイルがRakuten Link AIを提供するなどしてRakuten Linkのポータル化を強化することは、従来のユーザーが離れてしまう要因になりかねない点も気になるところだ。経営が厳しい楽天モバイルは、黒字化のため収益重視の姿勢を強めており、Rakuten Linkに関しても、無料通話やSMSの利用だけでは利用者から得られる収入を伸ばせないことから、ポータル化を推し進めグループ全体での売上を伸ばす戦略に転換したといえるだろう。 だが先にも触れたように、最近Rakuten Linkのポータル化で売上重視の姿勢が前面に出るあまり、通話やSMSに関する機能の使い勝手が損なわれてしまっている印象が否めないのだ。この状況が続くと、従来無料通話などを重視してRakuten Link、ひいては楽天モバイルを利用してきたユーザーが離れてしまいかねないだけに、利便性と売り上げのバランスを取ったアプリの改善も今後求められることになるのではないだろうか。
佐野正弘