【毎日書評】目の前のハードルが高いとき、400年読み継がれる「賢人の知恵」がヒントになる
バルタザール・グラシアンは、17世紀のスペインで活躍した著述家であり、イエズス会の修道士。その著作は世界各国で翻訳され、F・ニーチェやA・ショーペンハウエル、ラ・ロシュフーコー、森鴎外といった古今東西の文化人を筆頭に、多くの人々に愛読されています。 たとえば神学者のアルトゥール・ショーペンハウエルはグラシアンの著作のドイツ語訳を手掛け、日本でも森鴎外が部分的な日本語訳をしたそう。 哲学者のフリードリッヒ・ニーチェは、「ヨーロッパはいまだかつて、これほど精妙にして複雑な人生の道徳律を生んだことはなかった」と記し、ショーペンハウエルも「人生のよき手引書である」ということばを残しているのだとか。 また、高名なテノール歌手であるルチアーノ・パヴァロッティが愛読書としてグラシアンの著作を挙げていることからもわかるとおり、現代においてもその影響力は甚大です。 きょうご紹介する『バルタザール・グラシアンの賢人の知恵 エッセンシャル版』(バルタザール・グラシアン 著、齋藤慎子 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、2006年に刊行された同名書籍から181のことばを厳選し、再編集したもの。 聖職者の書いた人生訓、というと、皆さんは生真面目で禁欲的、理想的な内容を想像されるかもしれません。しかし全くそんなことはありません。 むしろグラシアンが主張し続けたのは、冷静な視点で現実を見つめ、思慮分別と洞察力をもって柔軟に物事に向き合うことです。 その背景には、当時のスペインの不安定な政情や社会に対する思いもあったのでしょう。ともあれ彼の教えは、400年の時を超えて、私たちに自分を高めることの大切さを与えてくれます。(「はじめに」より) そんな本書のVII「成功するための知恵」のなかから、いくつかをピックアップしてみたいと思います。
努力する
バルタザールはまずここで、努力することの重要性を説いています。シンプルですが、非常に重要なポイントではないかと思います。 人生の目的は、自分の歩むべき道を見つけて、できるかぎり完璧な人間になろうと努力することにある。(141より)