”黄色のおじさん”の市長選 720万円失うも「三度目の正直」目指した、76歳の14日間
■名古屋駅で演説
10日午後1時前、名古屋駅に到着した。太田さんは拡声器を口に当て自分の名前と公約を訴えた。太田さんの演説を聞くために立ち止まる人はいない。演説の途中、1人の外国人女性が太田さんのもとに駆け寄ってきた。記者は女性が太田さんに握手を求めてきたのかと思ったが、百貨店への行きかたを尋ねただけだった。 それでも太田さんはすぐ横で信号待ちをしている人たちの姿を見て手ごたえを感じたようだ。 「名古屋駅はいいな。人のいないところだとハトやスズメ相手に演説するときもある。人がこれだけいれば、今、通り過ぎた人たちが名古屋市民じゃなくても知り合いの有権者に伝わったりして俺の名前が届くかもしれん。こりゃ、当選しちゃうかもなぁ」。そう言って顔をほころばせた後、すぐに「でも、期待しすぎると落ちたときにショックが大きいからな、気を付けないと」。2度の敗戦を経て、あらかじめ悪い結果に備えるようになった。 太田さんは人前で演説することには慣れていても、注目されることには慣れていない。住んでいる地元ではめったに演説はしないという。「やっぱり知っている人のところでやるのは恥ずかしいよ」とボソッと言った。
■「票読み」できない不安と焦り
政党などの組織の後ろ盾なく個人で戦う太田さんにとって、得票数の予想を事前に立てる「票読み」は難しい。 「演説をしても何票入るのかなって毎日が不安」 こうした不安からかマスコミの選挙報道について不満をのぞかせ、「『だれが優勢』とか『だれが優位』とかの報道は俺たち『そのほかの候補』には不利だよ」とこぼす。 太田さんが指すマスコミの「情勢調査」とは一般に、電話やインターネットでどの候補者や政党が有権者の支持をどれだけ固めていそうかを探るものだ。太田さんは「優勢」や「リード」とされた候補者に「より多くの票が流れていく」とみている。 今回の名古屋市長選では史上最多に並ぶ7人が立候補したことで、票の分散が予想され太田さんにとっては一層厳しい戦いになった。 それでも「候補者が多いほうが盛り上がるよ。有権者がより自分の考えに近い人を選べる」と歓迎している。 「今回も1万から2万票をとれたらいいかな。供託金が戻ってくるだけの票がとれたらうれしい。でも、これは現実的な話」と前置きし、「夢はやっぱり『当選』だよ。そのつもりで演説している。だから一生懸命やるんだよ」と力強く言い切った。