”黄色のおじさん”の市長選 720万円失うも「三度目の正直」目指した、76歳の14日間
太田さんは帽子を脱いで、手渡されたマイクを握り、時折手元のメモに目をやりながら自らの公約を3分ほどで訴えた。その場にメディア関係者以外の有権者の姿はなかった。 選挙カーもポスターもなく、持っているのは自身の名前が書かれた「のぼり旗」と「拡声器」だけ。太田さんの14日間の選挙戦が始まった。
■迫られた選挙戦術の変更
第一声を終えたあと太田さんは昼食へ。選んだ店は市役所近くのカレーライスの店だった。背丈ほどあるのぼり旗をいそいそと席に寝かせてエビフライがのったカレーをほおばった。 今回の選挙戦では3年前の前回とは異なる戦い方を迫られた。 「前の選挙のときは地下鉄のすべての駅で下車して駅前で演説をしたんだけど、敬老パスに利用制限ができたから、同じ方法をとると上限に達してパスが使えなくなってしまう」 名古屋市の高齢者が使える敬老パスは2022年2月から利用対象の交通機関の拡充と引き換えに、制度の維持を理由として年730回の利用制限が設けられ「乗り放題」ではなくなった。議会を傍聴するために自宅と市役所を行き来することが多い太田さんにとって、選挙期間中の敬老パスの使用はできるだけ節約したいというのが心情だ。 そこで、今回の選挙では1つの駅で降りたら徒歩で移動しながら演説スポットを見つけては、道行く人に訴えかける作戦とした。ブログは更新するものの、インスタグラムやYouTubeといった今や必須ともいえるSNSの活用については「やりかたがわからない」と敬遠。 お金や手間をできるだけかけずに戦うが、人員や選挙資金さえあれば組織的な選挙活動をしたいという。 「ポスターも貼れるし、選挙カーがあれば効率的に回れる。選挙で勝とうとするとやっぱりお金がいる。物事、お金だ。そう思わん?」
■候補者たちのお金の使い道
過去、当選した人やほかの候補者は少なくともどれだけの費用をかけたのか?メ~テレは前回の名古屋市長選(2021年4月投開票)で、候補者が選挙にかけた費用を市選挙管理委員会に照会した。候補者が選挙運動や準備でかけた費用や使途が記載されている「選挙運動費用収支報告書」は、選挙から3年以内であれば市選管を訪ねれば閲覧が可能だ。今回は3年を過ぎていたため、情報公開請求を経て入手した。 それによると、太田さんは文具や選挙公報用の写真費用として計452円を支出として計上していた。当選した河村たかしさんは計330万4245円だった。内訳は「ポスター印刷代」に104万9400円、「事務所・街宣車・看板一式」で34万6500円、ほかに弁当代や高速代、駐車料金などだった。河村さんと接戦を繰り広げた横井利明さん(現・自民党名古屋市議)は計854万1783円を支出した。新聞折り込みや街宣車の取り付けといった「広告費」に234万2326円、駐車料金やガソリン代、ホテルでの宿泊代などがあった。