IT訴訟解説:開発技術の変更が争点となった裁判「ReactJSで作るはずだったのに、Laravelで作ったので訴えます」
この言語ならどのベンダーでも大丈夫とはいえなくなってきた?
ただ、昨今は随分と事情が変わってきた。オープンソースの普及、クラウド、統計その他の目的に特化した言語やクロスプラットフォームの充実により、前述のJavaやPHPに加え、「Python」「Go」「R」「Kotlin」「Swift」「Dart」「Julia」など、非常に多くの言語が広く使われるようになった。何がデファクトスタンダードなのか分からなくなりつつあるのが現状である。 同じことをするにも選択肢が豊富になってきたといってもいい。従って、システムを開発するときには技術の特性をよく踏まえなければならないし、ユーザー企業も保守や運用などを考え、その言語を扱える技術者の数を知っておかねばならない。 誰も保守する人間がいないとか、開発した会社に今後の保守やシステム改修を頼まざるを得ない、といういわゆるベンダーロックイン状態に陥ってしまう。これはあきらかにユーザーにとって不利なことであり、本判決もそうしたことに思いをはせた結果なのだろう。 本連載はベンダーの読者が多いので、ベンダーロックイン回避は痛しかゆしのところもあるかもしれないが、真にユーザー企業の便益を望む開発ができれば、大きな信頼も得られるだろう。 システム開発はユーザーの契約の目的に資するものである必要がある。その目的はコスト削減や生産性アップという目に見えるものだけでなく、システムの保守性や、ベンダーロックインを回避してより低コストで高品質なシステムを次期開発で可能にすること、それにより利益の拡大と経営の健全性を確保することも含まれるかもしれない。 言語の選択についての合意自体は小さな話ではあるが、これらを考えると決して軽視できないように思える。
細川義洋
ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった
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