ホンダと日産、経営統合の死角…本田宗一郎が「恐ろしい」と語った魔物とは?
● 日本メーカーが陥った「市場調査の罠」 本田は、著書『会社のために働くな』で、市場調査の本質について次のように述べていた。 「一つのことを調べるにしても、それにからまるファクターの裏の裏まで見透かしてやらないととんでもない結論がでてくる。それを一つの参考意見として見るならいいが、市場調査だけを首っ引きで見なければならないような経営者なら、市場調査はやらない方がいい」 「市場調査をやるなら、モノゴトを静止的でなく流動的にとらえられる人、すべてのファクターを現実の生々しいぬくもりを持たせたまま抽象化できる能力のある人がやるべき」 この言葉は、現代の市場分析にも重要な示唆を与えている。 中国市場での日本メーカーの失敗は、まさに「市場調査の罠」に陥った典型例と言える。今売れているから、このままでいいという発想だ。 日産が好きだから、ホンダに愛着があるから買うという客は少数であり、多くの人は日産の車の性能がいいから、ホンダは安い割によく走るからと言った経済合理的な理由で車を買う。もっと革新的な車がでたり、同じ性能で安い車がでれば、ドドッとお客は流れてしまうものである。 本田は市場調査について、「過去の足跡をたしかめること、自分の意見を大勢の社員に納得させる場合の手段として使うこと以外には考えていない」とも述べている。 「市場調査は、僕のイメージを補足して豊富化する手段ではあるが、僕の方針の決定項ではあり得ない」という言葉は、現代の経営者にとって重要な示唆となる。 日産とホンダの統合は、本田の深い洞察を改めて見つめ直す機会とするべきだ。両社に求められているのは、本田が説いた「人間観察の必要性」という視点の回復である。「人間の思想というものは、刻々に変わるもの」という本田の言葉を胸に刻み、従来の成功体験にとらわれない大胆な改革を進める必要がある。 具体的には、バッテリー技術の戦略的提携の検討、デジタル戦略の強化、ソフトウェア人材の育成・確保などが急務だ。さらに、日本車の品質や信頼性という強みを活かしつつ、先進的なイメージも付加する新たなブランド戦略の構築も重要となる。 本田が「マス・プロ(大量生産)ということ自体が、そういう普段の人間観察の必要性のうえに立っている」と述べたように、真の成功は、市場調査の数字だけでなく、消費者の心理や行動の変化を深く理解することから生まれる。 日産とホンダの統合が成功するかどうかは、本質的な理解に基づいた変革ができるかどうかにかかっているのではないだろうか。
小倉健一