“タイパ”重視、顔文字チャットにWスクールも…通信制高校を選ぶ生徒たち
転換点迎える通信制、新しい学び生まれるか
全国の通信制高校のガイドブック『通信制高校があるじゃん!』を毎年刊行する、学びリンク株式会社の代表取締役社長の山口教雄さんは、コロナ禍で親の意識が変わってきたという。
「弊社で開催している通信制高校の合同相談会などで親御さんと話すと、通信制の個別対応できる多様な教育のメリットを感じる人が増えています」 もともと通信制高校は、働きながら高卒資格を取得できる仕組みとしてスタートした。だが、1990年代以降、中学校の不登校や全日制高校の中途退学者が増えるにつれ、そんな生徒の受け皿の役割を果たしてきた。その後、生徒の多様なニーズに応える形で、通信制が提供するメニューも増えてきた。通信制高校卒業者の大学進学率は、1980年代まで5%未満だったのが、2021年度は約23%に増えている。そこには通信制に対するニーズの変化がある。 通信制高校について長年研究してきた愛知学院大学准教授で、教育社会学者の内田康弘さんは、コロナ禍を経て通信制高校は転換点を迎えていると指摘する。
「これまで通信制高校は、さまざまな理由によって全日制高校や定時制高校に行くことのできない人々の学びを保障する学校として期待されていました。特に1990年代以降は、同世代の友人と交流ができたり、学習への手厚い支援を得られたりする居場所を求める人が、不登校経験者や高校中退者、そしてその親御さんに多かったと考えられます。その結果、全日制と同じように毎日行われる対面授業や、文化祭などの学校行事に参加できることを強みにする通信制が、私立を中心に増えてきた。こうして一見矛盾する『通える』通信制高校が増えてきたのです」 「通える」に加えて、N高が開校した2016年以降、徐々に増えてきたのが、オンラインでも学べる通信制だった。2023年現在、コロナの位置づけも感染症法上の5類に移行され、全日制や他の教育機関の多くが対面授業を再開している。だが内田さんは、オンラインでの学びや通信制への熱が冷めることはないとみている。それは一人一人のニーズに合わせた自由な学びを獲得した経験が大きいためだ。 「オンラインで学びたい生徒も一定数います。私立通信制は生徒を獲得するというミッションがあるので、他校と差別化を図らなければなりません。結果的に多彩な通信制高校が次々と生まれてきました。次のフェーズでは、『通える』やオンラインに続く学びとしてどのようなものを打ち出せるのか、そして、それぞれの学びの質をどのように担保していくのかが問われています」 子どもたちのニーズをのみこみながら、時代の変化とともに多様化してきた通信制高校。新たな学びの形がそこから生まれるかもしれない。 -------- 緑慎也(みどり・しんや) サイエンスジャーナリスト。1976年、大阪府生まれ。出版社勤務後、月刊誌記者を経てフリーに。科学技術を中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『13歳からのサイエンス』『消えた伝説のサル ベンツ』(以上、ポプラ社)、『認知症の新しい常識』(新潮新書)、共著に『太陽家の謎を説く』(新潮選書)、『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社)、『ウイルス大感染時代』(KADOKAWA)など。近著に『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』(講談社、NHKスペシャル取材班との共著) 「子どもの問題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境をめぐる諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。