水上恒司「プロセスを踏んで、力が抜けている大人は魅力的です」
生きることに必死なのは同じです
── その余白は、演じる側としては大変なのでは? 水上 本作に限らず、カメラの前に立つ時には悩みを消し去った方が良い芝居ができると思いますが、それまではたくさん悩み、段取りの時や移動中、本番直前までもがき続けましたね。 ── 依頼主の代わりに行動する「リアル・アバター」の仕事をする岸谷。水上さんご自身との共通点はあるのでしょうか? 水上 生きていくのに必死ということはすごく共感ができますね。僕の仕事の場合、動くお金の桁が違いますし、それに伴った責任があります。だからと言って、僕の職業が偉いというわけではない。みんな立場が違うだけで、生きることに必死なのは同じです。不安定でどうなっていくか分からない世の中だからこそ、2025年に差し掛かるこの時期に本作を届ける意味があるのかなと思います。 ── この「リアル・アバター」の仕事に、挑戦したい気持ちはありますか? 水上 う~ん……どうでしょうね。自分が好きなことだけを仕事にしている、それだけで食べていける人間は、世界中探してもごくわずかだと思うんですよ。僕は好きで俳優という仕事をしていますが、もちろん中には自分の哲学とは違う役を演じることもあります。僕はそこを楽しみながら演じているから幸せですが、世の中みんな発想の転換ができるとは限らないし、立場も違う。食べていくためにお金が必要で、やらざるを得ない状況に陥っていたら……と思うと、岸谷の気持ちに共感ができます。やりたい、やりたくないで測れる安易な職業ではないという印象はありますね。 ── 少し癖のあるキャラクターでしたが、役作りで意識したことはありますか? 水上 僕が演じる岸谷は、何かと池松さん演じる朔也を気にかけているけれど、立ち位置としてはヒール役。その対比を、基本的には高い音を使い、ポイントで低い音を使うことで表現しました。
── 過去のインタビューで、ご両親が自分を産んでくれたことがターニングポイントだったとのこと。演じる際にもキャラクターの親を想像すると伺いました。 水上 演じるキャラクターがどんな家庭で育ったかというのは役作りでヒントになります。愛情をかけられて育ったのか、家庭がコンプレックスなのか、など。本作では、僕が演じる岸谷に関しては描かれていませんでしたが、朔也の母親は描かれています。僕は「朔也にとっての岸谷」を意識しました。 ── AI技術の進化に、岸谷は柔軟に対応していました。水上さんは、普段から時代や価値観の変化を感じますか? 水上 そうですね。今の子ども達は、なんでも手に入る時代。生身の人間からものを教えてもらう機会も少なくなり、夢が分からない、希望を持てない若者が多い世の中だと思います。本作では、そんな世の中でもがきながらも自分の意志をハッキリ示す岸谷に、僕はすごく共感しています。その気持ちを成仏させてあげたい気持ちで演じました。 ── お気に入りのシーンはありますか? 水上 朔也の母親と死後のVFを演じる田中裕子さんの演技は印象深いですね。ひとり息子の朔也を気にかける母親の姿が、全体を通して余白を残しつつも爪痕を残しています。あの母親の姿があるからこそ、朔也が最新AI技術を利用してまでも母親の本心を探ろうとするところに繋がっていきますから。 ── 最後に、作品の見どころを教えてください。 水上 本作を制作するにあたっての信念に到底叶うはずがないので、私見なくお話させていただきたいので多くは語りませんが、先輩俳優陣の皆様が、素晴らしい演技をされています。若者の皆さん、今まさにもがき生きている人、いろんな方々に観ていただきたい作品です。ぜひ劇場でご覧ください。