水上恒司「プロセスを踏んで、力が抜けている大人は魅力的です」
力が抜けている大人がカッコいい
── では、水上さんにとってカッコいい大人とはどんな人でしょう? 水上 力が抜けている大人です。若いうちは力が入ってナンボですが、それが良い感じで抜けているとカッコいい。逆に、若いうちから力が抜けているのはどうかと思いますが(笑)、正しいプロセスを踏んで力が抜けていると魅力的に見えます。僕も無駄な力を抜こうとするけれど、そんな自分も若いなあ……と、自己分析したりもしますよ。力が抜けてきた自分の「先の世界」を見てみたいですね。 ── 本作は主演が池松壮亮さん、石井監督作品の常連である妻夫木聡さんも出演と豪華キャストが揃いましたが、印象に残っている出会いはありましたか? 水上 魅力的な俳優がそろった現場でしたね。特に、共演シーンが多かった池松さんはまさに無駄な力が入っていないカッコいい俳優でした。ご本人に言ったら否定しそうですが、「諦念」という言葉をもつ人だな、と。一般的には「諦める」という言葉はネガティブな意味で使われますが、仏教の世界では迷いが去った境地というニュアンスがあって、僕が目指したいところのひとつですね。 ── 先ほどおっしゃっていた「力が抜けたカッコいい大人」ということでしょうか? 水上 そうですね。いい意味での脱力感をもちながら、確かな演技力を持ち合わせて、存在感を放っている。業界の中では中堅に差し掛かっているところだと思いますが、確立されたポジションをもった唯一無二の俳優なのではないでしょうか。
消化の悪さが心地よい、余白を愉しむ作品
── 本作を手掛けた石井監督も、業界の中ではお若い方ですよね。どんな印象を受けましたか? 水上 石井監督は、褒め言葉として「すごく変な人」です。映画監督だからこそ、その天才的でクリエイティブな思考、オリジナリティが活きていくということは否定できませんね。 ── 本作に出演を決めた決め手は? 石井監督からの要望などもあれば教えてください。 水上 的確に表現する作品が多い中、本作は「余白」に重きをおいている。人物ひとつとってもハッキリとした説明があるわけではなく、消化の悪さの心地よさが脚本にちりばめられていると僕は感触として受けました。それがまさに本作の魅力。どう演じるのが正解かは未だに分かっていないですし、作中の「岸谷」は、撮影した昨年2023年の夏時点で僕が感じ取った岸谷。石井監督に委ねられている、挑戦させられている感覚があったことが決め手です。 ── 水上さんは本作をどのように解釈していますか? 水上 本作では実在人物の分身として依頼主の代わりに行動する「リアル・アバター」や、仮想空間上に人間をつくる「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」という技術が描かれていますが、2024年の現在でも需要があれば実現する可能性があると思っています。原作では2040年の設定ですが、映画では地続きの近い将来として描かれています。だからこそ、観る側によって委ねられる、心地の良い余白を感じてもらえる作品になっています。