なんと、今話題の腸内細菌が「漢方薬」を“食べて”いる…? 腸の中で起こっている「驚きの現象」
私たちにとって身近なツボや鍼灸、漢方薬。近年、そのメカニズムの詳細が西洋医学的な研究でも明らかになってきています。例えば「手のツボが便秘改善に効くとされるのはなぜ」「ツボに特徴的な神経構造が発見された?」「漢方薬と長寿遺伝子との関わり」など、興味深い研究が数多く報告されているのです。最新の研究では一体どんなことが明らかになっているのでしょうか。 【写真】大建中湯にも使われている生薬「カンキョウ」、実は身近な食材だった…! 東洋医学のメカニズム研究の最前線をとりあげた一冊、『東洋医学はなぜ効くのか』(講談社ブルーバックス)から注目のトピックをご紹介していきます。今回は腸の免疫を高める作用が報告されている大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬に注目してみましょう。いま大ブームとなっている腸内細菌と深い関係があるようです。 *本記事は、『東洋医学はなぜ効くのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。 *漢方薬を服用する場合には、医師・薬剤師に相談し、決められた用法・用量を守ってください。
「大建中湯」はどんな漢方薬?
大建中湯は第二の脳とも呼ばれる腸の活動と関係しています。 抗炎症作用を持つカンキョウ、腸の機能を高めるニンジン、そして、腸の血流を良くするサンショウなどの4種類の生薬が含まれています。 大建中湯は、便秘や下痢、腸炎や腸の手術後の回復などに処方される漢方薬です。内科だけでなく腸の手術後に起こる術後イレウス(腸閉塞)の回復のため外科でも多く使用されています。臨床試験でも、術後イレウスの発症を抑える効果や便秘の改善などが報告されています。 また、大建中湯が作用するメカニズムについても数多く研究がなされています。例えば、生薬のひとつ、サンショウに含まれるサンショオールやカンキョウのショーガオールが、腸の内側の上皮細胞にあるTRPV1などの温度センサーを刺激し、腸の神経細胞を活性化することで腸の血流や運動機能を改善する作用が解明されています。
大ブームの「腸内細菌」が、大建中湯の効果に関係
新たなアプローチによるメカニズムの解明も進んでいます。筆者(山本)が番組で取材したのは、理化学研究所生命医科学研究センターの免疫学者である佐藤尚子博士らが行った研究です。マウスを使った実験で、大建中湯が腸内細菌を介して腸炎を抑制するというメカニズムを解き明かしたのです。 「なぜここで『腸内細菌』が?」と、少し戸惑ってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、「漢方薬」と「腸内細菌」の関係は以前から注目を集めていました。 昨今、いわゆる「腸活」が大ブームとなっているように、私たちのさまざまな健康効果や心身の機能に腸内細菌が関わっていることは皆さんご存知のことと思いますが、その大切な役割のひとつに、腸の免疫機能を維持するはたらきがあります。100兆個に及ぶとされる腸内細菌は、私たちが口にした食物を栄養分として暮らしていますが、その代わりに私たちの体に役立つ物質もつくり出します。それらは代謝産物と呼ばれ、いわば細菌のウンチやオシッコのようなものです。 最近の研究で、実はこうした代謝産物が、腸の免疫機能を高めたり炎症を抑制したりしていることがわかってきたのです。腸には免疫細胞の約7割があり、私たちにとって最も重要な免疫システムであることから、「腸内細菌と腸の免疫」については、医療の分野でも特に重要視される分野となっています。